夏空、蝶々結び。
・・・
「大分、良くなったよな」
印鑑を押した書類を私に返しながら、大澤先輩が言った。
「あ……すみません。訂正箇所、多くて」
舞い上がるほどではなくても、浮かれるくらいはしてしまっているのかも。
今日はいつもよりミスが多くて、昔みたいに叱られたりもした。
『先輩も人間だったんですねぇ』
なんて、カナちゃんをはじめ、皆に言われてしまった。おまけに大澤先輩には、
『佐々も、わりと昔は酷かったよな。コピーの設定間違えまくって、紙を大量に無駄遣いしたり……』
そんな昔話を持ち出されたっけ。
『先輩……!! 』
そんなこともあった。
もう少しだけ可愛い新人時代は、先輩の言う通り……わりと、めちゃくちゃだった。
『すごい不器用だったし。……単に、頑張り屋なだけだよな、佐々って』
皮肉なのか、ほとほと参っていたのを思い出したのか。どちらにせよ、恥ずかしすぎる。
『ばらさないで下さいよ……』
『いいじゃないか、人間味があって。お前は仕事中と休みの差が激しいから……何て言うか、誤解されやすいんだと思うよ』
自惚れかもしれない。
ううん、そうに決まっている。
それでも、その眼差しに愛情が込められているようで。
都合のいい解釈をしてしまわないよう、必死で抵抗を試みたというのに――とどめの如く言われてしまった。
『……ふーん。意外と見てるんだ』
呟いたのは、背後にいるゴンだけ。
あとは皆、ぽかんとして私と大澤先輩を交互に見ている。
『……す、すぐ修正しますから……!! 』
居たたまれない。
四方から感じる視線に耐えきれず、自分の席に戻ったのだった。