夏空、蝶々結び。
・・・
「初めてですね、こういうの」
おしゃれなレストラン。
夜。
仕事帰り。
――大澤先輩と二人きり。
ついモゾモゾして、言う必要のないことを直球に口にしてしまった。
「そうだけど……そんなにソワソワされると、こっちも落ち着かない」
「す、すみません」
反射的に謝ったけれど、そう言われてもどうしようもない。事実、私は緊張しきっていた。
「何か最近、声掛けやすくなっただけ。いや……ある意味、ぎりぎりまで迷ってたか」
(……? )
先輩らしくない。
歯切れが悪いし、何だか矛盾している。
「雰囲気が柔らかくなったというか。それって話しかけやすくはなったけど……もしかして、男のせいかな、とか」
自分で違和感を覚えたのか、先輩が眉を顰めた。
「……そ、そんなんじゃないです」
そんなに、何かが変わっただろうか。
考えを巡らせなくても、ここ最近の変化といえばひとつしかない。
意地悪で偉そうだけど――優しい幽霊が側にいることだけだ。
私の生活は変わった。
毎日起きるのが、それほど億劫じゃなく。
怒ったり笑ったり――何てないことでも、振り返れば一瞬一瞬に思い出し笑いをしたくなるような。
「確かに初めてだけど。俺は別に、それほど急なことだとは思わないよ。……って、ごめん。佐々には突然だし、嘘くさいよな」
(……ごめんなさい、先輩。すごく嬉しいけど……)
本当に嘘みたい。
リップサービスなのか、本気だけれどあまり意味のない発言なのか。
それとも本当の本当に、好意からの言葉なのか――。
先輩の照れ笑いと、少しだけ余裕のない声は、よりいっそう私をソワソワさせた。