ハージェント家の天使
 御國だった頃にテレビや教科書で見たストリートチルドレンのようだと、モニカは思った。
 橋の上に来ると、マキウスは立ち止まって、川下の子供達を見つめたのだった。

「強き者がいれば弱き者がいるように、富める者がいれば貧しい者がいます」
 マキウスはひび割れ、汚れている橋の袂に触れた。
「そんな貧しい者達が生活出来るようにするのも、我々貴族の役目です。ですが、全ての貴族がそうではない事も事実です」
 マキウスは橋の袂に触れていた手を、強く握りしめた。
「そんな環境を改善しようと、今の国王の代から、貧民街の支援を始める事になりました。そこに一部の王族や貴族、騎士が貧民街の支援に名乗り出ました。私や姉上も同じです」

 マキウスやヴィオーラを始めとする、国王に賛同している者達は、貧民街を革命しようとしていた。
 住みやすい環境にする為に、貧民街の清掃に乗り出し、飢える者達に食料支援をして、孤児に衣食住と学ぶ機会を与え、職のない者に仕事の斡旋をした。
 騎士団の巡回を強化する事で、犯罪を減らそうとしていた。

「けれども、全ての貴族が我々に賛同しているわけではありません。当然、反対する者もいます」
 新しい事をするという事は、その分、反発も多い。
「中には我々の邪魔をする者もいます。それもあって、まだまだ支援が完璧とは言えません」
 風が吹いて、川下から生臭い匂いがしてきた。
「私だけが害されるだけなら構いません。けれども、この事が原因で、もしかしたら私の大切な者達が傷つけられるかもしれません」
 マキウスはモニカを見つめた。

「私はそれを恐れています。私は貴方とニコラを守ると誓っていますが、私の手が届かないところで、2人が傷つけられたらと思うと……。怖いです」
 マキウスは事あるごとに、モニカとニコラを「守る」と言っていた。
 もしかしたら、この貧民街の支援が関係していたのかもしれない。

「大切なモノが増えるという事は、守る事が難しくなる、という意味でもあるのですね。私はようやく気づく事が出来ました」
 ニコラが生まれて、モニカを愛して、いつの間にかマキウスの周りには「大切なモノ」が増えた。

「マキウス様……」
「貴方がこれからもこの活動を認めてくれるなら、私はこれからも続けます。でも、認めてくれないなら……」
「続けて下さい!」
 モニカは即答した。
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