ハージェント家の天使
「本来なら、貴方の様に清らかな女性には似つかわしくない場所です」
「それでも」とマキウスは続けた。
「貴方には知って欲しい。姉上や私達が行っている事を」
「マキウス様やお姉様がやっている事?」
 マキウスの真剣な瞳に、モニカは息を飲んだのだった。
「一緒に来てくれますね?」
 モニカは頷く事しか出来なかったのだった。

 マキウスから王都を案内されたモニカは、マキウスに連れられて、広場の通りから外れた薄汚れた通りに入った。
「マキウス様、ここは?」
「モニカ、私から離れないで下さい」
 繋いだままのモニカの手を、マキウスは強く握った。
「……昨夜の時点では、ここに連れて行こうか悩んでいました。この辺りは特に治安が悪いからです」
 マキウスはモニカを見る事なく、前の見つめたまま続けた。
「けれども、先程の貴方の言葉で決心がつきました」
 先程、モニカが言った「貴族の役割」の事だろう。
「貴方ならきっと理解してくれる。私や姉上を始めとする、一部の王族や貴族、騎士達が取り組んでいる事に」
「それは一体……?」
 モニカがマキウスを見上げると、マキウスは「すぐにわかります」と告げた。
「さあ、この通りの先です」
 モニカの鼻に酷い匂いがしてきた。思わず鼻を押さえていると、マキウスは続けたのだった。
「ここが、王都の裏側です」

 通りを抜けると、そこには薄汚れた埃っぽい澱んだ空気が漂っていた。
 石が崩れた建物が並び、ゴミが放置され異臭がしていた。
 あちこちに、汚れた格好の人々が虚ろな顔をして、座っていたのだった。
「マキウス様、ここは……?」
「ここは貧民街です」
 2人の側を汚れた格好をした子供達が走って行った。
 モニカは子供達にぶつかりそうになり、慌ててマキウスにしがみついたのだった。
「気をつけて下さい。彼らにとって、私達は格好の獲物です」
「もしかして、あまり派手な格好はしないで欲しいと言っていたのは……」
 マキウスは頷いたのだった。

「先程、加工屋から出てきた子供達も、おそらく貧民街の子供達です」
 マキウスはモニカを連れて、貧民街の中を歩いた。
 真っ直ぐ進むと、石造りの橋があった。その下は汚い川になっており、その中には子供達が汚れるのも構わずに、服のまま入っていたのだった。
< 108 / 166 >

この作品をシェア

pagetop