ハージェント家の天使
「お兄ちゃん、私はね」
 モニカは深呼吸をすると、満面の笑みを浮かべたのだった。

「今、とっても幸せなの。だから、心配しなくていいからね」

「モニカ……」
 リュドは大きく目を見開いていた。モニカは大きく頷くと続けた。
「今の私には、マキウス様がいて、ニコラがいて、お姉様がいて、使用人の皆がいる。私の事を気遣ってくれて、助けてくれて、優しくしてくれて……。だから、私は幸せなの」

 この世界に来たばかりの頃は、皆と距離があって、1人ぼっちな気がして、寂しい思いをした。
 けれども、今はマキウスやヴィオーラ、アマンテやティカやペルラ達が、モニカに優しくしてくれて、時には手助けをしてくれた。
 もう1人じゃないんだと。思えるようになった。

「それに、私にはお兄ちゃんがいる。頼りになって、困っている時にはすぐに駆けつけてくれる、優しくて、強くて、カッコイイ、お兄ちゃんが!」
 きっと、怪我をしてから連絡をしなくなったモニカが、困っていないか、不安になっていないか、リュドは気になって会いに来てくれたのだろう。
 旅の途中でわざわざこの国にやって来て、厳しい入国審査を受けてやって来てくれた。
 それは、たとえ血が繋がっていなくても、妹が心配だからに他ならない。

「だから、心配しなくていいからね。私の事は大丈夫だから! それよりも、私はお兄ちゃんにも幸せになって欲しい」
「私も? 私は充分、幸せだが」
 リュドは訝しむが、モニカは「そうじゃなくて」と、苦笑したのだった。
「お兄ちゃんが私の幸せを願っているように、私もお兄ちゃんの幸せを願っているの」
「モニカ……」

「幸せになって。今度はお兄ちゃんだけの幸せを手に入れて欲しい」

 リュドは目を大きく見開いた。
「もう、幸せになっていいんだよ。私の事は気にしなくていいから。お兄ちゃんはお兄ちゃんだけの幸せを手に入れて」

 きっと、これまでリュドは自分よりもモニカの幸せを願ってきたのだろう。
 モニカの兄として、家族として。
 常にモニカの喜びや幸せを優先してきた。
 両国の危機を救った際の褒美を、自分ではなくモニカの為に使ったように。
 それに気づいたからこそ、モニカはリュドを私《モニカ》から解放してあげたいと思った。

 モニカはもう子供ではなく、大人になったのだから大丈夫だと。
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