ハージェント家の天使
「いや。そんな事はないんだ……。その、とある人に、自分の気持ちを伝えたくてな」
「それって……」
 モニカが伺うようにリュドを見ると、リュドは顔を赤くして「そういう訳ではないんだ!」と、否定したのだった。

「とある方と話をしたくてな。とても、凛々しくて、勇敢な素晴らしい方なんだ。……自分が憧れる程に」
 その人とリュドは、かつて一緒に戦った事がある。
 どんな状況になっても、冷静に考え、前を向き、他者を気遣う。
 仲間が危機に合えば、真っ先に駆けつける。
 その凛然とした姿は、まるで一輪の菫の花のようで。

「その方に、自分の気持ちを伝えたい。そして、どうしたらその方のようになれるのか、聞きたいんだ」
 あの、味方の陣形が崩れた絶望的な中。
 その凛々しくも洗練された美しさのある背中に、リュドはどれだけ救われただろう。
 どれだけ強くなれば、その人の様になれるのだろうか。
 その答えを見つけたくて、リュドは旅をしているが、結局、答えは未だに見つかっていなかった。

 遠くを見ながらリュドは話していた。それを聞いたモニカは微笑んだのだった。
「国の英雄と言われているお兄ちゃんから見ても凄い人なんだ! いつか、話せるといいね!」
「国の英雄など、私はそこまで強くないのだが……」と、リュドは頭を掻いて苦笑した。
「ああ……。そうだな。いつか、必ず」

 いつか、お兄ちゃんが、その人と話せるように。
 モニカはそっと願ったのだった。

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