ハージェント家の天使
 この明かりも魔力に反応して点くようで、魔法石が無い間は、使用人達が点けてくれていた。
「私は少し自室で用事を済ませてきますが、モニカはどうしますか?」
「私は少し読書をしてから休みます」
 モニカはベッド脇のテーブルに置いていた読みかけの本を手に取った。
 最近は、時間がある時に、この世界に関する本を少しずつ読むようにしていた。
 やはり、この世界で生きていく以上、この世界や、前の世界との違いについて知っておくべきだろうと思ったのだった。

「そうですか。私は湯浴みもしてくるので、遅くなるかもしれません。その時は先に休んで下さい」
「わかりました」
 この世界には、お風呂なるものはないらしい。
 バスタブらしき箱の中に湯を入れてもらい、そこに入る。
 本来であれば同性の使用人が、湯の用意だけではなく、身体や髪を洗ってくれるらしいが、モニカもマキウスも自分で洗っていた。
 最初は他人に洗ってもらうという事に戸惑いを感じたーーそもそも、「モニカ」の均整のとれた綺麗な身体を見ていられなくて。慣れてしまえば平気だった。
 ただ、屋敷内の使用人の数が少ないのに、モニカの湯浴みに付き合わせるのは気が引けて、最近は用意と片付けだけお願いして、1人で入るようにしていたのだった。

「それとも、一緒に入りますか?」
「それって……」
(どうしよう。お風呂の事だよね!?)
 モニカが真っ赤になってたじろいでいると、マキウスは吹き出した。
 そして「冗談です」と、笑ったのだった。
「いつもより早く、貴方との時間が出来たので、一緒に過ごしたいと思っただけです」
「もう……」
 嬉しいような、悲しいような。
 そんな気持ちにモニカがなっていると、「ですが」と、マキウスは続けた。
「貴方と2人きりで過ごしたいと思ったのは本当です。野暮用を済ませて、早く戻ってきます」
 マキウスが寝室から出て行くと、モニカはベッドに倒れたのだった。
「マキウス様も冗談を言うんだ……」
 静かな部屋に、モニカの呟きだけが響いたのだった。

 それからしばらく、モニカが本を読んでいると、扉が開いた。
「モニカ? まだ起きていたのですか?」
 部屋に入って来たのはマキウスだった。
「あれから随分と時間が経ったので、もう寝たのかと思っていましたよ」
「もう、そんな時間なんですか?」
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