ハージェント家の天使

流星群と明かされた過去【下】

「誰かが、貴方は相応しく無いと言った訳では無い。それなのに、どうして自分は相応しく無いと、勝手に決めつけてしまうのですか!?」
「それは……」
 ここまで、マキウスが激昂したのは、モニカの夢の中以来だった。
 モニカが言葉に詰まっていると、マキウスはモニカを抱く手に力を込めた。

「私は貴方が相応しく無いなどと、思っていません! 寧ろ、私の方が貴方とニコラに相応しく無いのではないかと、不安になるくらいに……」
「そんな……。マキウス様が相応しく無いと思った事はありません!」
 モニカはマキウスに縋り付いた。マキウスの身体は震えていた。

「私の方こそ、貴方とニコラに謝らなければなりません」
「マキウス様が謝る事……?」
「ええ。私は出産を甘く見ていました。……知らなかったのです。子を産むというのが、命懸けの行為である事を」
「姉上に本気で怒られ、殴られもしたのは、子供の頃以来です」と、マキウスは顔を歪ませたのだった。

 かつて、「モニカ」がニコラを妊娠した際に、「子を身籠もった」と、「モニカ」自身から言われた時、マキウスは何とも思っていなかった。
 子供は放っておけば、勝手に産まれてる。
 マキウスはそう思っていた。
 だから、ただ「そうですか」と、答えただけだった。
「モニカ」は肩を落として、虚ろな眼差しになった。それから、部屋に籠って、マキウスと顔を合わせてくれなくなった。
 それまでは、使用人達には反応しなかった「モニカ」でも、マキウスが機嫌を伺いに行くと、顔は見せてくれていた。
 それさえも、してくれなくなったのだった。

 ある日、たまたまヴィオーラと「モニカ」について話す機会があった際に、「モニカが身篭った」と、ついでのように報告したら、ヴィオーラは烈火のごとく怒った。
 そうして、マキウスの顔を平手打ちしたのだった。
「女性にとって、子を産む事がどれほど命懸けの行為なのか、マキウスは母親の経験から、知っていると思っていました!」
 マキウスはヴィオーラの言葉で、ハッと思い出したのだった。
< 144 / 166 >

この作品をシェア

pagetop