ハージェント家の天使
「自分の価値を決められるのは、自分だけです。……それを良くするのも、悪くするのも自分だけです」
「マキウス様……」
「相応しく無いと思うなら、相応しいと思えるようになりましょう。お互いに」
「はい……」

 マキウスはモニカから身体を離した。
 モニカが空を見上げると、丁度、一際大きな流星が流れて行ったのだった。
「マキウス様、見ましたか? 今、大きな星が流れて」
「モニカ」
 モニカが呼ばれて振り向くと、目の前にマキウスの顔があった。

 そうして、目を大きく見開いたまま固まっていたモニカの唇に。
 マキウスは口づけてきたのだった。

 モニカは息を止めて、マキウスをじっと見つめていたが、やがてマキウスに身を委ねた。
 そのまま、モニカはマキウスによって、布の上に押し倒された。
 そっと顔を離したマキウスは、モニカの上に覆い被さった。
「私の事は怖いですか?」
 モニカは首を振った。
「マキウス様とお兄ちゃんは平気です」
 マキウスはモニカの頬に触れた。
 あの公園での夜から、他人に自分の頭や顔を触れられるのが苦手だった。
 けれども、マキウス達に触れられるのはだんだん慣れてきた。
 マキウスに至っては、触られると気持ちいいと思うくらいに。
 マキウスはムッと眉を寄せた。
「ここで、他の男は聞きたくありませんね」
「他の男って、お兄ちゃんは家族ですよ」
 モニカは苦笑した。すると、マキウスは悲し気に微笑んだ。

「私の事は嫌いですか?」
「いいえ」
「では、好きですか?」
「はい」
 モニカは即答した。すると、マキウスは「今度はもっと酷い事を聞きます」と、前置きしてから話し出した。

「もし、生き返って、元の世界に戻れる事になった時、貴方はこの世界と元の世界の、どちらを選びますか?」
「それは……」
 家族や友人達がいる元の世界と、マキウスやニコラ達がいる今の世界。
 どちらも、モニカにとっては大切な世界。
 けれども、もし選ぶとするならばーー。

「私はこの世界を選びます。私が愛したいと思った人達が住む世界に。私が愛されたいと思った人達が居る世界に」

「モニカ……」
 マキウスは泣きそうな笑みを浮かべた。
 そんなマキウスの後ろを、また一際大きな流星が流れて行った。
 それは、幻想的な光景だった。
 モニカにとって、永遠に忘れない光景になったのだった。

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