ハージェント家の天使
「私は男です。そして、貴方を愛しています。……私は貴方が欲しい」
 モニカはハッと息を呑んだ。
「私は貴方にとって、辛い事や苦しい事、過去の傷に触れてしまうような事をしてしまうかもしれません」
 マキウスの瞳が熱を帯びたように見えた。
 モニカの胸が大きく高鳴ったのだった。

「それでも、これからも、私と一緒に居てくれますか?」
 モニカは少し逡巡した後に、笑顔で頷いたのだった。
「私もマキウス様を愛しています。これからも一緒に居ます。……永遠に」

 マキウスはモニカの両頬に手を添えた。
 そうして、2人はまた口づけを交わした。
 今度は長く、深く。
 マキウスと口づけを交わし合ったのは、今夜が初めてだった。
 流星群の下で、口づけを、想いを交わし合った今夜を忘れる事は無いだろう。
 これからもずっとーー。

 やがて、マキウスはモニカに手を貸すと、身体を起こしてくれた。
 空からは絶え間なく、流星群が流れていたが、2人の目には、互いの姿しか見えていなかった。

「私達、流星群を見に来たのに、何をしているのでしょうか?」
「フフフ」とモニカが笑うと、マキウスも頷いた。
「そうですね。流星群を見るどころか、すっかり話し込んでしまいました」
「続きは屋敷に戻って見ますか?」と、マキウスが訊ねてきたので、モニカが「そうですね」と答えて、2人がまた笑い合っていた時だった。
 モニカの背後から、足音が聞こえてきたのだった。

 マキウスはモニカを庇うと、「誰ですか?」と静かに問うた。
 すると。

「元の世界? 生き返る? 一体、どういう事なんだ……?」

 やって来たのは、モニカとマキウスがよく知る人達であった。

 マキウスが最初に話していた内容を、モニカはすっかり忘れていた。
 マキウスは言っていた。
「この場所は私『達』のお気に入りの場所」だと。

「お、お兄ちゃん……?」
「あ、姉上……?」

 そこに呆然と立っていたのは。
 2人にとって、大切な家族でもある、モニカの兄のリュドヴィックと、マキウスの姉のヴィオーラだった。

「どういう事なんだ……。モニカ、マキウス殿」
「お兄ちゃん、お姉様も……」
 モニカとマキウスの後ろからやって来たリュドとヴィオーラは、呆然とした顔で近づいて来た。
「どこから聞いていたの?」
「……2人が倒れた辺りから」
「声を掛けてくれたら良かったのに……」
 モニカは呆れ気味に言ったが、リュドは真っ直ぐにモニカを見てきた。

「説明してくれないか?」
「それは……」
「リュド殿」
 マキウスは2人の前に、すっと出た。
「モニカは悪くありません」
「マキウス殿?」
 リュドは両眉を上げた。
「……全て、私の責任です」
「……っ!」
「私がモニカを……」
 その瞬間、リュドはマキウスに駆け寄ると、襟元を掴んだ。

「モニカに……。妹に何をしたんだ!?」
「止めてよ! お兄ちゃん!」
 モニカはマキウスの襟元を掴むリュドの腕にしがみついた。
「マキウス様は悪くないの! 悪くないの……」
「モニカ……」
 マキウスは何も語らずに、ただリュドに掴まれるままになっていた。
「止めてよ。お兄ちゃん……。マキウス様も……」

「リュド様、マキウス」
 それまで、黙って成り行きを見ていたヴィオーラが、マキウスの襟元を掴むリュドの手を掴んだ。
「今は止めましょう。話すにしても、ここでは私達以外にも聞かれる可能性があります」
 リュドは納得がいかない顔をしながらも、マキウスの襟元を離した。
「マキウス様!」
 その場に膝をついたマキウスに、モニカは駆け寄ったのだった。
 マキウスの肩を抱いたモニカに、ヴィオーラは「モニカさん」と静かに声を掛けた。

「明日の夕方、屋敷に伺わせて下さい。そこで話しましょう」
「……はい」
 ヴィオーラは、「明日の夕方、リュド様を連れて、屋敷に向かいます」とだけ伝えると、リュドを引っ張って行ったのだった。

「マキウス様……」
「モニカ、私達も帰りましょう」
 2人は言葉少なく、片付けを済ませると、丘を降りたのだった。

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