ハージェント家の天使

天使【上】

 次の日、モニカが屋敷で待っていると、屋敷の馬車で、マキウス、ヴィオーラ、リュドの3人がやって来た。
 ヴィオーラは仕事が終わるとマキウスの馬車でそのままやって来たらしく、騎士団の制服姿だった。
 また、リュドも騎士団の詰め所である城で待ち合わせをして、一緒にやって来たとの事だった。
 本来なら、部外者であるリュドは城に入れない筈だが、士官であるヴィオーラが身元の保証人である事と、国の英雄である事もあり、騎士団にも立ち入る事が出来るらしい。

「モニカさん。昨晩ぶりですね」
「お姉様、お兄ちゃん!」
 いつもとは違う応接間の4人掛けソファーに座って待っていた3人に、モニカは笑顔で近寄ったのだった。
「モニカ」
「マキウス様も、お帰りなさい!」
 マキウスに促されて、モニカはマキウスの隣に座った。
「今日もお仕事お疲れ様でした!」
「モニカも、今日もニコラと屋敷をありがとうございます」
 笑みを浮かべたマキウスがモニカの腰に手を回すと、モニカも満面の笑みでマキウスの身体に身を寄せたのだった。

「2人共、仲が良いのは構わないが……」
 咳払いしながら、リュドが2人を止めた。
 マキウスとモニカは、パッと離れると口々に謝ったのだった。
「失礼しました。リュド殿、姉上」
 部屋に入って来たティカが4人分のお茶を用意すると、マキウスは人払いを命じた。
 ティカは承諾すると、静かに部屋から退室したのだった。

「さて」
 4人がひと息つくと、ヴィオーラは口を開いたのだった。
「昨晩の事を話してくれますね。マキウス、モニカさん?」
 ヴィオーラとリュドから問い掛けるような視線を受けて、マキウスとモニカは頷いたのだった。
「はい」
 モニカは返事をしたが、膝で組んだ両手が震えていた。

 ここで失敗したら、ヴィオーラとリュドから嫌われてしまう。
 そう思ったら、自然と手は震えてしまったのだった。

 すると、隣から伸びて来た手が、そっとモニカの震えている両手に触れた。
 モニカが振り向くと、そこには安心させるように微笑むマキウスの姿があった。
 マキウスは小さく頷くと、向かいに座るヴィオーラとリュドの方を振り向いた。

「では、私から説明をさせて下さい」
「マキウス様……」
 そうしてマキウスは、モニカとこれまであった事を話し出したのだった。

「そんな……」
 マキウスが話し終わった時、リュドは眉をひそめた。
「妹のモニカは死んで、ここにいるのは、モニカの姿形をした別人だというのか……」
「はい。黙っていてごめんなさい……」
 モニカが2人に向かって頭を下げると、「いや」とリュドは首を振ったのだった。
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