ハージェント家の天使

天使【下】

「ヴィオーラ殿、『天使』とは……?」

 リュドが訊ねると、ヴィオーラは「マキウスとモニカさんはご存知かと思いますが」と、言い置いた。

「この国は、大天使様によって出来ました。ユマン族人の大天使様が持っていた技術と知識によって」
「はい。確か、騎士団の壁画に描かれていましたよね?」

 モニカがマキウスと婚姻届を騎士団に提出しに行った際に、モニカは騎士団の詰め所の壁に描かれたこの国の創世について、ヴィオーラに教えてもらった。
 この国、レコウユスは、天から現れた1人のユマン族人である大天使によって作られた。
 大天使が持ってきた不思議な技術と知識によって。

「その大天使様は、モニカさんと同じように、元は異なる世界からやってきたユマン族だと言われています」
「えっ……!? そうなんですか!?」
 モニカは口を開けた。マキウスも知らなかったようで、目を見開いたまま固まっていたのだった。
「ええ。大天使様も、元の世界で死んだ後に、とあるユマン族人の身体に宿ったそうです」

 大天使が居た世界では、国同士の争いが勃発していた。
 絶え間なく戦火の炎は上がり、大天使もその被害を受けた。
 そうして、空から「カガクヘイキ」なるものを落とされた後、大天使が目を覚ますと、この世界に居たと言われている。

「大天使様は放浪の末に、この国の原型であるカーネ国に辿り着きました。そうして、空に国を作ろうとしている我らが祖先に力を貸して下さったのです」

 大天使はカーネ族から話を聞くと、自らも協力を名乗り出た。
 国の設計図に手を加え、道具や人材などの建国に必要な材料を集めた。
 けれども、国を浮かべるには、燃料が足りない。
 そこで目をつけたのが、カーネ族が持つ魔力であった。

「当時のカーネ族は、誰もが高い魔力を持っていました。それを集めれば、不足している国の浮遊力になると考えたのです」

 大天使はカーネ族を説得した。
 全てのカーネ族が納得した訳ではなかった。納得しなかった者達は、カーネ国から出て行った。
 そして、賛同した者達の魔力を1つに集めた。
 それは1つの大きな炎となって、国を浮かばせる力になったのだった。

「私達の魔力が生まれつき少ないのは、この時にご先祖様達が、ほとんど使い切ってしまったからだと言われています。中には魔力を使い過ぎて、死んだ者もいるそうです……。
 とにかく、この国が完成した私達のご先祖様達は移住を開始しました。けれども、その中に大天使様の姿は無かったそうです」

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