ハージェント家の天使
「そうです。では、魔力を補充しますので、魔法石を貸して頂けますか?」
 モニカが魔法石のブレスレットをはめた腕を差し出すと、マキウスは片手で掴み、空いている手で魔法石に触れて、魔力の補充をしてくれたのだった。

「そういえば。このブレスレットのデザインも『天使』でしたね」
 青色の光を仄かに放つブレスレットを見つめながら、モニカは呟く。
「そうですね。案外、天使の由来は、異なる世界から来た花嫁達にあるのかもしれません」
 この国では、天使は「尊い者」や「愛おしい者」という意味があるらしい。
 異なる世界からやって来た「天使」をそう思った事から、この意味が出来たのかもしれなかった。

「このブレスレットを依頼した時は、まさかモニカが本当に『天使』だとは思いませんでしたが……」
「誰もそうは思わないですよね」
 やがて、青色の光は小さくなると、魔法石に吸い込まれるように消えていった。
 一時期はこの魔法石と魔力の影響もあって、夢見の悪さにモニカは魘されていた。
 けれども。最近はマキウスがついているからか、変わった夢は見ないようになったのだった。

 光が消えて、魔法石に魔力の補充が終わった。
 いつもなら、補充が終わるとマキウスは手を離してくれるが、今日は掴んだままだった。
「あの……。マキウス様?」
 一向に手を離す様子がないマキウスに、モニカは声を掛けた。
 すると、マキウスは掴んでいた手を組み替えると、モニカの指を絡めるように手を握ったのだった。
「マキウス様、これは……?」
 モニカがマキウスの指が絡んだ手を見つめていると、顎に手を掛けられた。
 顎を持ち上げると、目の前には悲しげに微笑むマキウスの姿があったのだった。

「……貴方と引き離されなくて良かった」
「それって……」
 夕方、ヴィオーラから「天使」について話を聞いた時に、「『天使』は保護する」と言った事だろう。
「貴方まで失ったら、私の心はもう耐えられません。……耐えられそうにない」
「マキウス様……」
 モニカは安心させるように、マキウスに微笑んだ。
「大丈夫です。私はマキウス様の傍にいます」
「モニカ……」
「決めたんです。何があっても、マキウス様の傍にいると、マキウス様について行くと」
 モニカは顎を持ち上げていたマキウスの手を自らの頬に当てると呟いた。
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