ハージェント家の天使
(こんな時に……!)
 いつもより激しく痛む頭に顔を顰めていると、旦那様は焦ったように御國を解放したのだった。
「どうしましたか? もしかして、手に力を入れ過ぎましたか……!」
「いえ! そうではないんです! ただ、頭が痛くて!」
 御國が痛みで倒れそうになると、旦那様は御國の肩を支えてくれたのだった。
「ベッドまで運びます。こちらへ」
 御國は旦那様に支えられて、部屋のベッドに横になったのだった。

 それから、御國がベッドで休んでいると、旦那様は恐る恐る声を掛けてきたのだった。
「気分はどうですか?」
 御國は旦那様に腰と胸元を緩めてもらい、ベッドで横になっていた。
「まだ頭は痛みますが、幾分か楽になりました。ご心配をおかけしてすみません」
 御國が身体を起こすと、旦那様は水差しから水を汲んで渡してきたのだった。
「私の方こそ、貴方が元気になったとばかり思っていました。……気づかずに申し訳ありません」
 頭を下げる旦那様に、御國は「そんな事はありません」と慌てたのだった。
「旦那様には色々と良くして頂いています。だから、気にしないで下さい」
「それよりも」と御國は旦那様から渡された水の入ったコップをサイドテーブルに置いたのだった。

「旦那様の言う通り、私はモニカではありません」

 御國のその言葉に、旦那様はハッとしたのだった。
「やはり」
「今からお話しします。私……、モニカじゃない『私』について」
 御國は旦那様がベッドに座れるように、端に少し寄った。旦那様は御國に顔をだけ御國の方を向いて座ったのだった。
「信じられないかもしれませんが、私はこことは違う世界に住んでいたんです」
 そうして、御國は自分が元いた世界と、自分がこの世界に来る直前にあった事について話したのだった。

 御國が話し終わる頃には、外は完全に暗くなっていた。
 この世界にも昼と夜があり、太陽と月があり、晴れの日や雨の日がある事を知ったのは、御國がこの世界にやってきてすぐの頃だった。
「俄かには、信じ難い話ではありますが……」
 旦那様は眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「そう思われても仕方がないと思います。私が旦那様の立場でもそう思います」
 御國はサイドテーブルに置いていたコップを手に取ると口をつけた。水はすっかり温くなっていたのだった。

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