ハージェント家の天使
 どうやら、すれ違った騎士達はいずれもマキウスより身分の高い騎士だったらしい。

 少し歩くと、マキウスが立ち止まった。
「この先に婚姻届の受付部屋となっています。私が出してきますので、貴方はこの辺りで待っていて下さい」
「わかりました」
 モニカが頷くと、マキウスは歩いて行ったのだった。
 物珍しそうに城内を見ていると、モニカの右側の通路の先に絵が飾られているのが見えた。
 モニカはもっとよく見ようと、絵の近くに行ったのだった。

 通路の突き当たりの壁には、大きな絵が描かれていた。
 壁に直接描かれた絵は、劣化してインクがところどころ剥がれかけていたのだった。
「これは……?」
 壁に描かれていたのは、壊れかけた家や荒れた田畑の側で、頭から犬の様な耳が生えた人達が上空に向かって手を伸ばしている絵だった。
 手を伸ばした先には、空から降りてくるように背中に大きな羽が生えた人が宙に浮いていたのだった。
 羽からは光が差していたのだった。
「羽が生えた人間……? 天使なのかな?」

「これは、我が国の創世を表す絵です」

 モニカが壁画に近づいて眺めていると、後ろから声を掛けられた。
 モニカが後ろを振り返ると、そこには騎士団の制服を着た見目麗しい女性が立っていたのだった。
 歳はモニカやマキウスより、やや歳上に見えた。
 白色に近い灰色の髪を、犬の様な黒色の耳が生える頭の上で1つに結び、背中に流していた。
 凛とした両目は深いアメシストの様な紫色をしていた。
 その凛然とした姿は、マキウスとよく似ていたのだった。

「家々の前にいるのが、我らがカーネ族です。そして、天から降りてきているのは、我が国の救世主たる大天使様と言われています」
 女性騎士は背中から流れる青色のマントを靡かせながら、モニカに近づいてきた。
 制服の肩章がマキウスより多い事から、マキウスよりも高い階級の騎士だと思った。
 モニカより頭1つ分大きい女性騎士は、隣に並ぶと微笑んだ。
「我が国が出来た由来はご存知ですか?」
「確か、元々住んでいた国に人間達ーーユマン族がやってきて、内乱が起きたからでしたよね?」
 女性騎士は頷いた。
「そうです。けれども、私達がこの国を造るきっかけとなったのは、この大天使様でもあるのです」
 そうして、モニカに説明をしてくれたのだった。

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