ハージェント家の天使
 カーネ族は、これ以上、争いが起こらないように国を空に浮かべる事を思いついた。
 けれども、カーネ族には国を空に浮かべる程の技術を持っていなかった。
 国を永久的に浮かべる為の魔法も。
 思いついたのはいいが、実行出来る術はなかった。
 いたずらに時間だけが過ぎていく中で、突然、空からひとりのユマン族がやってきた。
 カーネ族は警戒をするが、ユマン族はカーネ族が持っていなかった知識や技術を彼らに見せた。
 その中に、国を空に浮かべる為の知識と技術があったのだった。
 カーネ族はユマン族の言葉を信じて国を造った。
 そうして、ユマン族の力を借りて、国を空に浮かべられたのだった。

 力を使い果たしたユマン族は、天に還った。
 そんな不思議な知識と技術を持っていたユマン族を、カーネ族は「大天使」と呼んだ。
 そして、国の守り神として祀る事にしたのだった。
 いつの日か、また「大天使」がやってきてくれる事を信じてーー。

「そのユマン族さんーー大天使さんが、皆さんのご先祖様を救ってくださったんですね!」
「ええ。この騎士団の原型も、大天使様が作ったと言われています」
 モニカが女性騎士と話していると、「モニカ」と後ろから呼び掛けられた。
「マキウス様!」
 やって来たのは、マキウスであった。
「モニカ、探しましたよ。こちらに居たんですね」
「心配をおかけしてすみません。こちらの壁画が気になってしまって……」
「全く、貴方という人は……」
 マキウスがモニカに近づいてくると、隣に女性騎士が居る事に気づいたようだった。
 何故か、マキウスは顔を強張らせたのだった。
「マキウス様?」
 モニカが首を傾げると、マキウスは顔を強張らせたまま女性騎士に向けて声を掛けた。
「隊長、今日はお休みだったはずでは?」
「ええ。忘れ物をしたので、取りに来たんです」
 隊長と呼ばれた女性騎士は、マキウスを見つめたまま答えた。
 マキウスは女性騎士を一瞥すると、モニカに向き直ったのだった。
「……用は済みました。さあ、行きましょう」
 マキウスはモニカの手を取ると、そのまま立ち去ろうとした。
 その時。

「マキウス」

 女性騎士は静かに声を掛けてきた。
 その呼び掛けに、マキウスはピタリと足を止めた。
 モニカが首を傾げていると、女性騎士は続けたのだった。

「姉である私に、義妹(いもうと)を紹介してくれないのですね」

「えっ? 姉? 義妹?」
 モニカが困惑していると、マキウスは顔を強張らせたまま女性騎士に向き直った。
「……失礼しました。隊長(・・)。彼女は、モニカ・ハージェントです。今日を持って、正式に私の妻となりました」
「そして」と、マキウスは次いでモニカの方を向いた。

「モニカ、彼女はヴィオーラ。私が所属している小隊の隊長です。……そして、私の異母姉(あね)でもあります」

 女性騎士ーーヴィオーラは、胸に手を当てるとモニカに一礼をしたのだった。

「初めまして、モニカさん。弟がお世話になっております。
 私はヴィオーラ・シネンシス・ブーゲンビリアと言います。
 ブーゲンビリア侯爵家の当主であり、マキウスの姉になります」

 そうして、ヴィオーラは顔を上げると、モニカに微笑んだのだった。
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