ハージェント家の天使
 モニカはニコラを抱いていない方の手で、ドアノブを回すが鍵がかかっているのか扉が開かなかったのだった。
「他の人は、鍵を使っていなかったのに……?」
 前にモニカが使用人とやって来た時は、ドアノブを回しただけで扉が開いた。
 最近、鍵をかけるようになったのだろうか。
 それにしても、扉には鍵穴が見当たらなかった。

「モニカ様?」
 モニカが扉の前で戸惑っていると、メイドがやってきたのだった。
「貴女は……。確か、ティカさんと仲良しの……?」
「はい。ティカの友人のエクレアです」
 緑色の瞳に、白色のボブショートの様な髪、頭からも雪の様なフワフワの白色の毛の生えた耳を生やしたエクレアは無表情で頷いたのだった。
 ティカと同じ屋敷からこの屋敷にやって来たというエクレアは、ティカ曰く「とても仲の良い友人」との事だった。

「この部屋に何か?」
「はい。ニコラの予備のオムツが無くなってしまって……」
「そんな事でしたら、私達を呼んで頂ければ良かったのに」
 エクレアは溜め息をついた。
 エクレアによると、使用人は交代で昼休憩を取っており、一度に全員は居なくならないので、モニカが呼べば休憩をしていない使用人がやって来たらしい。
「そうだったんですね〜。知りませんでした」
「はあ。それでは、開けますね」

 エクレアがドアノブを掴むと、一瞬だけドアノブが光ったような気がした。
 すると、扉は難なく開いたのだった。
「あれ? 鍵がかかっていなかったのかな?」
 難なく開いた扉に、モニカは恥ずかしくなって顔を赤くしていると、エクレアは首を振っあ。
「いいえ。鍵はかけていましたよ。ただ、魔法で締めていただけです」
「魔法で?」

 この屋敷に限らず、この国では鍵は魔法で掛けるのがまだ一般的であった。
 それはこの国の住民の大半が、魔法が使えるカーネ族ばかりだからだったと言われている。
 金属製の鍵が出来たのは、200年前のユマン族との同盟が結成してから。
 それでも今でもカーネ族の多くは、鍵を持ち歩く癖がついていない。
 鍵を落としたり、拾った鍵を使って悪用される心配が無いからと、魔法で鍵を掛ける者がまだまだ多いらしい。

「魔法の鍵でしたら、登録した者以外は開けられません。または、その鍵を最初に掛けた者が許可した者しか開けられません」
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