ハージェント家の天使
 ヴィオーラの様子を思い浮かべた2人は、クスクスと笑ったのだった。
 モニカは席を立った。

「マキウス様。少し早いですが、私は先に部屋に戻ります」
「モニカ」
 立ち上がったモニカに合わせて、マキウスも立ち上がった。
「後ほど、部屋に伺っても良いでしょうか?」
「はい。構いませんが……?」
(魔力の補給だけなら、改めて聞かなくてもいつも部屋に来るのに……?)
 モニカは首を傾げながら返すと、マキウスは意味深に頷いたのだった。

 モニカは湯浴みを済ませると、髪を拭きながら部屋で待っていた。
 すると、控えめなノックの音が聞こえてきた。
 最近はノックの音だけで、誰が部屋に来たのかわかるようになってきたので、すぐに答えたのだった。
「お待ちしてました。どうぞ〜」
「モニカ、入りますよ」
 部屋に入って来たのはマキウスだった。
 モニカと同じように湯浴みをしてきたのか、灰色の髪は若干濡れていたのだった。
「すみません。私から約束を取り付けながら遅くなりました」
「いえ。私も湯浴みを済ませたばかりでしたので」

 マキウスはいつものように魔力の補給に来たのだろうと、モニカは思っていた。
 だから、油断していたのだ。
 モニカがタオルで髪を拭いていると、不意に背中から抱きしめられたのだった。

「マキウス様……?」
 モニカが振り向こうとすると、マキウスは益々強く抱きしめたのだった。
「何を我慢しているのですか?」
「が、我慢だなんて、そんな……!」
 モニカが真っ赤になりながらマキウスを解こうとするが、マキウスはモニカの肩に顔を埋めた。
「アマンテからも聞きました。ここのところ、ずっと様子がおかしいと。何か悩み事でも?」
「悩み事なんて、そんな……」
「私に話してくれませんか?」
「それは……」

 モニカが話そうか迷っていると、マキウスはそっと息をついた。
「……私では頼りになりませんか?」
「そんな事はありません!」
 モニカは即答した。
「これは、こればかりは私が乗り越えなければならないんです。マキウス様の事は頼りにしています。でも、こればかりは……」
「……そうですか」
 マキウスはモニカの頭を撫でた。マキウスからは甘く優しい匂いがしてきた。
 その優しさに、モニカの涙腺は緩みそうになったのだった。
「何かあれば、いつでも相談して下さい」
「はい……」
< 76 / 166 >

この作品をシェア

pagetop