ハージェント家の天使
 マキウスはモニカからそっと離れた。
「さあ、魔力を補給します。指輪を貸して下さい」
 モニカが指輪をつけた手を差し出すと、マキウスは自分の手を重ねたのだった。

 魔法石の魔力は、持ち主が指輪に触れて、持ち主が念じるだけで魔力を補給できるらしい。
 持ち主が指輪に触れている時間が長ければ長い程、魔力を多く補給出来る。
 魔法石は魔力が溜まる程、魔法石の輝きが増すとの事だった。
 実際に、モニカの魔法石は屋敷内で使っただけでも、かなり魔力を消費しているようで、魔法石の青色の輝きは鈍っていた。
 マキウスに補給をしてもらう事で、海を思い浮かべるような青色の輝きが戻っていたのだった。

「終わりました。私は部屋に戻ります」
 マキウスはモニカの手を離した。
 いつもマキウスの手が離れる度に、名残惜しい気持ちになってしまう。
 行かないで欲しいと、モニカは手を伸ばしそうになるのだった。
「色々とありがとうございました。マキウス様」
「モニカ」
 マキウスは柔らかな口調で話した。

「いつでも私の事を頼って下さい。貴方が私の力になってくれるように、私も貴方の力になりたいです」

 そうして、マキウスは「おやすみなさい」と言って部屋を出て行った。
「マキウス様……」
 モニカの胸はジーンと温かくなったのだった。

 その日の夜遅く。
 暗い部屋に明かりを点して、マキウスは本を読んでいた。
「ん? これは……」
 マキウスは近くから自分の魔力の波動を感じて、顔を上げたのだった。

 屋敷内の扉を開けるくらいの少量の魔力なら、魔力の波動を感じる事はない。
 だが、何かを生み出すといった大きな魔力だと、魔力の波動を感じる。
 特に、自分の魔力となると尚更。

 マキウスは本を置いて明かりを消すと、部屋を出た。
 屋敷内の暗い廊下を歩き、魔力の波動を辿ると、そこはモニカの部屋であった。
「モニカ……?」
 マキウスは小声で呼びかけるが、部屋の中からは物音さえ聞こえてこなかった。
 そっと部屋の扉を開けると、青色の光が輝いていたのだった。
「これは……!?」
 マキウスの身体が強張った。
 魔力の波動でもある青色の光が、部屋の中を青色に染めていた。
 青色の光は光源はベッドにあるようだった。
 マキウスは足音を立てないようにそろりと近づく。
 ベッドにはモニカが眠っていた。
 嫌な夢をみているのか、モニカは魘されていたのだった。
「モニカ!」
 マキウスは呼びかけながらモニカの身体を揺さぶるが、起きる気配はないようであった。
「モニカ……」
 マキウスが毛布をハラリとめくると、青色の光が一際強く部屋を照らした。
「やはり、そうでしたか……」
 マキウスは眉を寄せた。
 青色の光は、モニカが身につけている青色の石がはまった指輪ーー魔法石の指輪から出ていたのだった。

 モニカは全く気づいていないようだったが、最近は魔法石に宿っている魔力の消費が著しく多くなっていた。
 マキウスは補給をする度に、その消費量を不思議に思っていたが、どうやら夜間にモニカが使っていたらしい。
 モニカ自身が望んで使用しているのか、魔法石から漏れ出た魔力がモニカに影響を与えているのかはわからない。
 ただ、モニカが魔力の影響を受けているこの状況は非常に厄介であった。

「なんとか、しなければ……」
 マキウスはモニカの傍らに跪くと、魔法石の指輪をつけた手を取った。
「貴方は、今、どんな夢を、どんな気持ちで見ているのでしょうか?」
 マキウスは指輪に口づけると、その手を強く握った。
 反対の手で指輪に触れると、目を閉じたのだった。

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