ハージェント家の天使
 モニカが礼を述べると、マキウスはそっと微笑んだ。
 知らず、モニカがガウンを押さえている何も身につけていない左手に、マキウスが自らの手を重ねていたのだった。

 マキウスの言う通り、モニカは魔法石の指輪をしていなかった。
 今朝、仕事に行くマキウスに渡したからだった。
 マキウスによると、ヴィオーラが魔法石の加工について、腕に自信のある職人に心当たりがあるという事で、マキウスは以前からヴィオーラに仲介をお願いをしていたらしい。
 ようやく、職人と話しがついたという事で、マキウスはヴィオーラにモニカの魔法石の指輪の加工をお願いしたのだった。

「姉上によると、2、3日あれば完成するそうです。完成したら、姉上が職人がいる工房まで取りに行くそうなので、そうしたら姉上の元に取りに行ってきます」
「ありがとうございます。マキウス様。何から何まで、お世話になってしまって」
 モニカが礼を述べると、マキウスは首を振ったのだった。
「これくらい、大した事ではありません。
 それよりも、私は貴方に謝らなければなりません」
「何ですか?」
 モニカが不安に思っていると、マキウスは頭を下げたのだった。
「私が魔法石を渡した事で、貴方を夢に悩ませる事になってしまいました。それも、気がつくのが遅くなってしまい。……申し訳ありません」
 モニカは慌てて、両手を振ったのだった。
「そんな! マキウス様は悪くありません。私も相談しなかったですし。それに、寝室も別々なので、気づかなかったのも当然で……」
 マキウスは頭を上げると、「その事ですが」と話しを切り出したのだった。

「貴方にお願いしたい事があります」
「な、なんでしょうか? 私に出来る事ですか?」
 マキウスは頷いた。
 何を言われるのだろうか。
 モニカは口の中が乾いていくのを感じた。

「今夜から、私と同じ部屋で寝ていただけませんか?」

「同じ部屋って……。この部屋ですか?」
「そうです」
 マキウスは頷いたのだった。
「実は、以前よりアマンテから相談を受けていたんです。ニコラも育ってきて、夜の度にアマンテの部屋に連れて行くのが大変になってきたと」
 ニコラも順調に成長しており、体重も徐々に増えてきていた。
 モニカもニコラを抱くのに、力が必要になってきたのだった。

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