ハージェント家の天使
「せめて、夜の間だけでも、モニカの部屋をアマンテに貸していただけませんか? その間、モニカはこの部屋で寝て下さい」
 マキウスは俯いた。
「私と一緒が嫌というのならば、私が別の部屋で寝ますが……」
「嫌だなんて……。そんな事はありません!」
 モニカはマキウスに近寄った。
「でも、あまり寝相良くないですし。もしかしたら、マキウス様の邪魔になるかもしれません……」
 モニカはマキウスから目を逸らすが、マキウスは「そんな事」と息をついたのだった。
「その時は、私がなんとかします。だから、貴方は気にせずに休んで下さい」
「そ、そうですか……」
 モニカはホッとして、バルコニーの手摺りを掴んだのだった。

「それにしても」
 マキウスはバルコニーから外を眺めた。
「まだまだ、知らない事だらけです。世界も、貴方の事も……」
 マキウスは昨晩のモニカの夢について言っているのだろう。
 モニカは「私もです」と、答えたのだった。
「まだまだ、この世界の事や、魔法の事、マキウス様の事を知りません」
 モニカはマキウスを見上げた。
「でも、知らないなら、これから知っていけばいいんです」
「モニカ……」
 マキウスはモニカを見つめてきた。
 モニカもマキウスを見つ返すと、マキウスの紫色の瞳には、夜空の輝きが映っているように思えたのだった。

「私達の人生はまだまだ続くんです。だから、知らない事は知っていけばいいんです。世界の事、お互いの事を」

 モニカはマキウスに向かって、右手を差し出したのだった。

「だから、教えて下さい。
 私が知らなくて、マキウス様が知っている事を。
 その代わり、私もマキウス様が知らない事を教えます」

 マキウスは目を大きく見開いて、モニカとモニカが差し出した手を交互に見つめていた。
 やがて、マキウスは相好を崩して手を伸ばすと、モニカの手を握ったのだった。
「そうですね。私にも教えて下さい。貴方の事をもっと知りたいです」
「はい! 勿論です!」
 モニカは笑ったのだった。

「まずは、お友達からですかね?」
 目を覚ましたモニカがマキウスと出会った時には、既に2人は婚約関係であった。
 そのまま、2人は夫婦になったので、モニカはマキウスの事をよく知らないままで、結婚した事になる。
 いわば、友達を通り越して、夫婦になった状態であった。
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