ハージェント家の天使

甘い読み聞かせ

「モニカ。お待たせしてすみません」
 モニカがマキウスと同じ寝室を使うようになってから、3週間近くが経った。
 マキウスと同じベッドに寝るだけの添い寝にも、モニカはすっかり慣れたのだった。
「いいえ。私は大丈夫ですよ」

 モニカは寝室のソファーで、子供向けの本を読んでいた。
 近々、ニコラに読み聞かせようと、マキウスに頼んで購入してもらった本だった。
 マキウスはソファーにやってくると、モニカの向かいに座ったのだった。

「最近、お仕事が忙しそうですよね……。お身体は大丈夫ですか?」
 モニカは本を閉じながら、心配そうにマキウスを見つめた。
「ええ。大丈夫です。ご心配をおかけして、すみません」
 モニカは首を振った。
「いいえ。1番最初の、全く部屋に来てくれなかった時に比べたら、まだ良い方です」
「あの時は……。すみませんでした」
 モニカがこの世界に来てすぐの頃、部屋で療養しているモニカの元に、マキウスが全く来なかった。
 それに比べたら、モニカに顔を見せてマキウスの無事の安心させてくれる、今の方が充分良かった。

「気にしないで下さい。私も、もう気にしていません」
「そうですか……。それは安心しました。
 それで、最近、忙しそうにしていた理由ですが、モニカの魔法石の加工が完了したそうです」
「あっ! ようやく、終わったんですね!」
 モニカはマキウスに、マキウスはヴィオーラ経由で専用の職人に、魔法石の指輪の加工をお願いしていた。
 どうやら、こちらから依頼した魔法石のデザインが複雑だったようで、当初、2、3日で出来るはずだったのが、3週間に伸びていたのだった。

「ええ。随分と不便な思いをさせてしまいました」
「そこまで、不便ではなかったです。屋敷の皆さんに手伝ってもらえたので」
 魔法石が無い事で、モニカは屋敷内の使用に一部の制限がかかってしまった。
 けれども、ティカやエクレアを始めとする、メイドや使用人達が、モニカを手助けしてくれたのだった。
「すっかり、ハージェント男爵夫人らしくなりました。頼もしい事です。
 屋敷の者達と打ち解けてきましたし、これなら、近々、屋敷の事をお任せ出来そうです」

 貴族の妻の役割の1つに、屋敷内の管理というのがあり、その中には、使用人やメイドの管理も含まれている。
 使用人やメイドの雇用や仕事の管理は、使用人やメイドの長である家令や執事、メイド長が担当している。
 そんな彼らと共に貴族の妻も、仕事で不在がちの夫の代わりに、屋敷内を管理をしてた。
 現在はマキウスが屋敷内の管理をしているが、本来はマキウスの妻であるモニカの仕事であった。

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