パラダイス、虹を見て。
13.どうすればいいの?
 何度も思っているけど、秘密の館に住む住人達は皆、優しい。
 お互いを思いやって、お互いを尊重し合って生活している。
 騎士団はだいたい30歳を過ぎると現役を引退する人が出てくるそうで。
 ヒョウさん、アラレさん、モヤさんは騎士団を引退して新たな仕事をしているということだろうか。
 まさか、ヒョウさんが翻訳家だなんて知らなかった。
 どっちかといえば、政治に関わる仕事をしているのかとばかり思っていた。
 王様と顔見知りだって言うし。
 それよりも、ヒサメさんがピアニストって意外すぎて笑っちゃいそうだ。
「おはよう、カスミちゃん」
 いつものように、何一つ変わらない一日が始まる。
 恐ろしいことに部屋に戻ってからの記憶があまりない。
 考えることを放棄した私は、いつも通りの日常を選んだんだと思う。
 パチリと目を覚まして朝を迎えた瞬間、
 昨日の出来事がぶわっと蘇ってきて。
 ああ、何で生きてるんだろって思った。

 畑に行けば、笑顔で接してくれるアラレさんがいる。
 ギャーギャー言いながら華奢な身体で土を耕すサクラがいる。
 空を見上げれば、いつも通りの晴天。
 土の湿った匂い。
 いつものメンバー。
 …私の肉親はもう、ヒョウさんしかいない。

 ヒョウさんは私をどうしたいんだろう?
 一緒に暮らしたいとは言っていたけど。
 …私と一緒に暮らしてもいいことないと思う。

 よっぽど怖い顔をしていたのか、サクラに
「考え事しながら働くのは危険だからね。集中力!」
 と見事に自分の状況を言い破られた。
 頬をぱんっぱんっと叩いて。
 集中しようと、気合を入れた。
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