パラダイス、虹を見て。
15.「自分」という存在
 何も考えないように、過ごすことを選択した。
 能天気だとか、
 馬鹿だね…と言われても。
 そうです、私は馬鹿ですって開き直って生活するしかないんだ。
 ここで、自分を馬鹿にする人間なんていないけど。

 泣いて、何かが変わるわけじゃない。
 嘆いて叫んだところで、過去は戻らない。

 畑仕事をして、庭園の仕事を手伝って・・・
 もう、それでいいじゃない。


 身体が、心が、悲鳴をあげたとしても。
 私は無視をすることに決めた。
 無視していたら、ついに倒れるハメになる。


 その日は、いつものように日の出と共に起床して。
 身支度をして畑に向かおうとしていた。
 鏡を見て「よしっ」と呟いて、立ち上がった瞬間に悲劇は起きた。
 ぐらりと身体が傾いた。
 あ、倒れるなとわかったけど。
 吸い込まれるように地面へと向かって行って。
 せめてもの抵抗で両手を床について倒れた。

 バターンと、馬鹿みたいに音が響いた。
 目の前がチカチカする。
 唇がぶるぶると震えた。
 あ、これはヤバいなと思うと。
「ヒサメさん」
 と口に出した自分にまた驚いて意識を失った。
< 125 / 130 >

この作品をシェア

pagetop