パラダイス、虹を見て。
 私は、まばたきをして。
「はぁ?」と顔をしかめた。

 目の前にいるのは、本当にヒサメさんなのだろうか。
 薄暗いせいで、実は別人ではないかと疑う。


「勘弁してよねー。俺、奥さんいるんだから」


 そう言うと。
 ヒサメさんは立ち上がった。

 私は立ち上がったヒサメさんを無意識に睨んだ。
「…奥さんいるのなら、夜中に女性の部屋なんか来ちゃ駄目ですよ」
 ヒサメさんに負けじと大声で言うと。
 ヒサメさんは黙って私を睨みつけた。
 何も言わず。
 数秒、見つめ合ったかと思えば。
 ヒサメさんは出て行ってしまった。

 ヒサメさんが出ていくのを確認すると。
「あー」という声が漏れた。
 哀しくて仕方ない。
 ボロボロと涙が出てくる。
 これが一体、何に対しての涙なのかはわからないし。
 どうして泣いているのか理解できない。

 酔っぱらっているヒサメさんなんて、嫌いだし。
 どこかで、ヒサメさんに会えて嬉しかったと思っている自分に絶望する。
 泣いたってどうなるわけじゃないのに。
 この苦しい感情は何?
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