パラダイス、虹を見て。
10.過去の私に会う旅
 3日後。
 私、サクラ、ヒサメさん、イナズマさんの4人が屋敷の前に立っていた。
 車に荷物を詰め込む。
「帰りにでもモヤを拾ってきてくれる?」
 早朝だというのに、ヒョウさんとアラレさんが見送りに来てくれている。
「了解」
 モヤさんをまるで物扱いするかのように。
 ヒョウさんとヒサメさんが会話している。

 改めてこのメンバーで行くのかと思うと。
 凄く憂鬱だ。
 車に乗り込んで、ヒョウさんとアラレさんに手を振る。

 車を運転するのはヒサメさんだった。
 運転はヒサメさんとイナズマさんが交代でやるそうだ。
 車を走らせながら、しばらくは街並が続く。
 運転席にはヒサメさん、助手席にはイナズマさん。
 後部席には私とサクラといった感じだ。

 朝早いので、頭をぼーとさせながら。
 窓の外を眺めていた。
 誰も喋ろうとはしない。
 瞼が重くなって寝てしまう寸前になった時、ヒサメさんが喋りだした。
「ヒョウは、罪に問われるのかね?」
 誰に言っているのかわからなかった。
 サクラを見ると、サクラは怖い顔で前を見ている。
 いつのまにかサングラスをかけたイナズマさんが、ヒサメさんのほうを見た。
「わかりません。そればっかりは」
 ヒョウさんに対してだけ腰が低いのかと思いきや、
 イナズマさんは丁寧な言葉遣いでヒサメさんに向かって言った。
「元々、あの敷地内って俺らしか住めないわけじゃん? 家族すら許されることがないっていうのにさ」
『俺ら』というのは、騎士団出身の人間ということだろうか?
 それとも、身分の高い人達だけという意味なのか。

 会話に割り込むわけにもいかず、黙って2人の会話を聴く。
「ヒョウが唯一の肉親だからって国王に頭下げて住まわせてもらってるんでしょ。それで問題起きちゃったわけだからさ」
 車をゆっくりと停車させて。
 ヒサメさんが言った。
「もし、兄貴に罰が与えられるっていうのならば」
 チラリとイナズマさんはこっちを見た…ような気がした。
「俺が死にますよ」
 再び、車が動き出す。
 絶対に私が聴いているとわかって。
 ヒサメさんは、わざと言ったのだろう。
 吐き気がした。
 何で、こんな目に遭っているのだろう。
 自分という存在が、兄にすら迷惑かけているのならば。
 存在しなきゃよかったのに。

「自分を責めないでくださいね」
 隣にいたサクラが、ぽつりと言った。
「・・・むりだよ」
 声になるか、ならないかの声で言うしかなかった。
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