拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 元々俺は、伯父である道隆のことがあまり好きじゃなかった。

 別にこれといった理由があった訳じゃない。

 ただ、幼いなりにも、快く思われていないことを感じ取っていたんだろう。

 別にそれは、俺だけがという訳じゃない。桜小路家の人間全般においてということだ。

 恨むーーまではいかないにしても、駒として婿にならざるを得なかった自分に対しての歯痒さと、悔しさ、それらをいつか見返してやろうという反骨心からだったに違いない。

 俺も同じ男だからそういう気持ちは分かる。

 そういう意味では、同情もしている。

 俺だって、桜小路家の次期当主として、物心ついた頃から、自分の意志に関係なく、ありとあらゆる英才教育といわれるモノを強いられてきて。

 まだ母親が元気だった頃は、嫌だと駄々をこねて、何度母親を困らせたか分からないくらい、嫌で嫌でしょうがなかった。

 母親が亡くなってからの俺にとっては、寂しさを紛らわせるのにはちょうど良かったのかもしれない。

 お陰で、以前のように嫌だなんて思わなかったし、負担に思ったことなどなかった。

 気づいたら、代々続く先祖がそうしてきたように、親父の後を継いで、次期当主になることが当然だと思うようになっていたし。

 それがなによりも誇らしいことだと、思うようになってもいた。

 それが、大人になって、桜小路グループの次期当主としての第一歩を歩むようになった途端に、腹違いの弟である創太を次期当主にと推す古参が事あるごとに邪魔をしてくるようになって。

 そこで初めて、自分もただの駒にすぎないんだって悟ったし。

 駒として桜小路家に婿入りさせられた伯父の気持ちだって、以前より理解できるようになった気がする。

 だからって、伯父の思うようにさせる気なんて毛頭ない。

 俺は俺の力で、次期当主のポジションを勝ち取ってみせる。

 そのためには、目の上のたん瘤ーー大きな反対勢力である伯父のことをなんとかして抑え込んでおく必要があった。

 それがすべての発端だ。
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