拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 だから私が居なくなった後の廊下で……

「ははっ、菱沼に面と向かって楯突くとはいい度胸だな」
「まぁ、確かに。母子家庭で育ったせいか、同世代の若い女より少しは骨がありそうではありますが、あの女狐に対抗するには、まだまだでしょうねぇ」
「ま、それも一週間、無事に乗り切れればの話だがな」
「創様、近頃は鼻炎のほうもすっかり落ち着いているせいか、『端から期待なんてしていなかったがな』なんて言いながら、ずいぶんと楽しそうですねぇ」
「いい暇つぶしになりそうだからなぁ」
「それはそれは良うございましたねぇ」
「フンッ、まぁな」

 桜小路さんと菱沼さんが密かに私のことを話していたことなど知る由もなかった。

 ちょうどその頃。クリーンルームにあるドラム式洗濯乾燥機に洗濯物を戻しながら、桜小路さんにこのあと作るよう言われていた、シフォンケーキに入れる紅茶の茶葉のことで、私の頭の中はいっぱいだったのだ。
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