花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 物音ひとつしない家。8月の半ばともなれば、朝からうだるように暑い。エアコンをつけて寝たけれど、タイマー設定にしていたせいで途中で切れていた。背中にじわりと汗がにじんできて、体を起こす。

 湿った寝間着を着替えるために、足音を殺して脱衣所へ向かう。ついでに顔も洗って、軽く朝食を摂った。

 朝は何も考えなくても、誰にも咎められない。

 ごめんちょっと寝ぼけてたと言えばたいていのことは許してもらえるし。

 スマホを見ると栗ちゃんから返信があった。あいつは起きる時間がバラバラだ。昨日は学校に来る30分前に起きて遅刻ギリギリだったし、おとといは登校の1時間30分前に起きて「オレ今日めっちゃ健康的だったわ」と嬉しそうに語っていた。今日は朝練でもあるのだろうか。


 『了解』


 何も飾ることなく、ただそれだけ。これは俺の偏見だけれど、イケメンはみんなメッセージの返信が派手なイメージ。栗ちゃんは絵文字も使わなければ、スタンプも使わない。必要最低限、絶対誰にでも誤解なく伝わるように。

 やっぱり頭はいいんだよなぁと思いながら、コーヒーをずずっと啜る。

 太陽が、カーテンの隙間から覗いてきた。

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