昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
「凛!」
 最後に鷹政さんの顔を見られただけでも幸運かもしれない。
「た、鷹政さん、逃げて! ……ゴホッ」
 煙でむせてしまい胸に手を当てながら鷹政さんに目を向けたら、彼の背後に伊織さんや右京さん、それに春子さんや弟たちもいた。
「伊織は消火の準備を、右京は客を小型艇で避難させろ!」
 鷹政さんは声を張り上げて彼らに命じ、自分は近くのテーブルにあったバケツ型のシャンパンクーラーの水を頭から被る。
 多分、私を助けようとしているのだろう。
 しかし、この炎に飛び込んで私を助けるなんて無理だ。彼も死んでしまう。
「鷹政さん、逃げて!」
 あなたらしく冷静になって考えて!
 私が泣き叫ぶと、橋本清十郎も険しい表情で鷹政さんを止めた。
「凛ちゃんは諦めろ! お前まで死ぬぞ!」
「だから? 凛は絶対に死なせない!」
ギロリと鷹政さんが橋本清十郎を睨みつけ、その眼光の鋭さに橋本清十郎はゴクッと息を呑んだ。
 
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