昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
「火事よ! みんな逃げて!」
 腹の底から声を出して叫ぶ。
「お願い、みんな早く逃げて!」
 私はきっとこのまま死ぬに違いない。
 炎が目の前に迫ってきて恐怖を感じた。
 全身が震える。
 どんなに足掻いたって助からない。
 もっと鷹政さんと一緒にいたかった。
彼のためにお料理を作って、笑って食べてもらいたかった。
 でも、鷹政さんに会えて私は幸せだった。
 十五年前の葉山での出会い。
 彼に金の指輪をもらって勇気づけられて……。
 そして、就職した会社で彼に再会。
 恋をして、彼と一緒に過ごすことができて……。
 ああ……私は世界一の幸せ者だね。
 これ以上望むのは贅沢だ。
 でも、神さま、最後のお願いを聞いてもらえませんか。
 死ぬ前に一目でいい、鷹政さんに会いたい――。
 そう願うも、すぐに考え直した。
 いや、会わなくていい。ここに彼が来るのは危険だ。
「みんな逃げてー!」
 声が擦れるのも構わず叫び続けると、愛する人の声が聞こえた。

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