昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
でも、立て続けのお産が心臓にかなりの負担をかけたようで、母は弟を産んでしばらくして体調を崩し、私が三歳の時にこの世を去った。
 母のことはうっすら覚えているが、優しく抱っこされた記憶はない。
 父は『お前のせいで節子が死んだ』と毎日のように私を責めた。
 節子というのは母の名前。
 お姉さまも弟もとても優しくて大好きだけれど、私は保科家には生まれてこない方がよかったのだ。
「ねえ、知ってる? 人は空気がないと生きていけないんだよ」
 お兄さんが私の肩をそっと抱いて慰めるが、その言葉を聞いても気持ちは楽にならなかった。
「でも……私はいらない子なの」
「いらない子なんていないよ。きっと今頃君の家族が心配して探してるんじゃないかな?」
 彼が私の頬の涙を拭いながらにっこりと微笑んだ時、琴さんの声がした。
「お嬢さま? 凛お嬢さま?」
 辺りをキョロキョロしながら琴さんが私を探している。
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