昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
彼女は田中琴さんといって私が赤ちゃんの頃から世話をしてくれているうちの女中のひとり。年は三十歳。背はスラッとしていて、髪は後ろでひとつに束ねている。
 食事の支度をしていたのか、彼女は割烹着姿だ。
「君を迎えに来てくれたんじゃない?」
 お兄さんは明るい笑顔で言うが、私はがっかりした。
 迎えは来たけれど、お父さまではない。
 父は私には無関心。
 やっぱり私はいてもいなくてもどうでもいい子なんだ。
 悲しくてギュッと唇を噛む私を見て彼が注意する。
「噛んだら血が出るよ」
「だって……お父さまは来ないもの」
 そう言い返して泣きじゃくっていたら、「じゃあ、とっておきのものを君にあげよう」というお兄さんの温かい声がした。
 とっておきのもの?
 その言葉に涙がピタリと止まる。
 不思議に思って顔を上げたら、彼は自分がつけていたネックレスを取って私の首にかけた。
 そのネックレスには鷹が彫刻された大人用の金の指輪がついている。その指輪を手に取りながらお兄さんは告げた。
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