Dear my star
「それに、別に面白い所でもないよ」
「でも、お兄ちゃんが働いてるところ見てみたいんだもん」
「だめ。家で留守番してて」
はーい、とちょっと拗ねた顔をして言えば、お兄ちゃんはふっと笑って食器を重ねた。
「ご馳走様。じゃあ行ってくるね。九時には帰るから、しっかり鍵かけること」
そう言ってトートバッグを肩にかけたお兄ちゃんは流しに食器を置いて、玄関へ向かう。
「あ、待って待って」
お見送りがしたくてて、慌ててサラダのトマトを飲み込んだ。
スニカーのつま先をとんと床に叩きつけたお兄ちゃんは、「行ってきます」と私の頭に手を置く。
「頑張ってね。美味しい晩御飯作って待ってる」
「ん。────真佳、ちょっと」
くいくい、と手招きしたお兄ちゃん。
不思議に思いながら近付けば、お兄ちゃんは私の頬に手を伸ばした。
少し高い体温が頬に伝わる。
ばくん、と心臓がはねて目を見開いて固まった。
次の瞬間、長い親指がくいっと頬を滑って離れていく。
そのまま自分の口元に持っていったお兄ちゃんはそれを舐めて悪い顔で笑う。
「ソースついてた。じゃあ、今度こそ行ってきます」