Dear my star
欠けた満月
泣き疲れて眠った私を部屋に運んだ後、お兄ちゃんはあの家を出て行った。
次の日から学校には通っているみたいだけれど、私のことを避けているのかすれ違うことも見かけることもなかった。
私も、会いに行こうとは思わなかった。
探して会ったとして、どんな顔をして合えばいいのか分からない。
謝ってもこれからを変えることはできないし、お兄ちゃんはきっとそれを求めていない。
お兄ちゃんが日本を発つまでじっとこうして会わないようにして、そしていつか時間が経つとともに思い出も何もかも全部が消えて無くなればいい。
それが私に出来る限られた唯一のことなんだ。
「生田さん?そこのゴミ袋運んでもらっていい?」
「……あ、うん。わかった」
声をかけられたことで我に返った。
ぼんやりしていたけれど、今は明日の文化祭に向けてみんなで準備をしている最中だ。
私たちのクラスは「魔女のシチュー屋」というお店を開くことに決まった。
童話の「ヘンゼルとグレーテル」に出てくる、お菓子の家に住む魔女がグレーテルに食べさせたシチューを出すお店、という設定だ。
私がぼんやりしている間に、教室の壁はお菓子の飾りが付けられて、喫茶店のようにテーブルが並ぶ。
「あ、じゃあ私も一緒にいきまーす!」
看板の取り付けを手伝っていた郁ちゃんが手を挙げた。