Dear my star


よいしょ、と袋を持ち上げた郁ちゃんが「行くよ真佳!」と私に声をかける。

うん、とひとつ頷き郁ちゃんを追いかけた。


廊下はマジックペンやペンキの匂い、試作の食べ物の匂いで溢れていた。

普段の放課後とは違ってまだまだ沢山の生徒が残っていて教室も廊下も騒がしい。


「わー、隣のクラスすご! 内装凝ってるねぇ」

「ほんとだね」

「調理室からいい匂いするねぇ。あとでちょっと覗いてみようよ!」

「そうだね」

「……真佳?」

「そうだね……っあ、ごめん。なんだっけ?」


生返事をしていたらしく、郁ちゃんが少し困った顔で私の顔をのぞきこんだ。


「ごめん、ほんとに、なんでもないの。何の話だっけ……?」

へへ、と笑って肩をすくめると、郁ちゃんは驚いたような顔をした。

不思議に思っていると「こっち!」と手首を引っ張って階段の裏に連れていかれた。


私のゴミ袋を取り上げた郁ちゃんは、自分のカーデガンの袖を引っ張り出して私の頬をゴシゴシとぬぐう。

そうされてやっと自分の頬が濡れているのに気が付いた。


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