義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
朝一番の「おはよう」を
 じりり、と目覚ましが鳴る。朝を、起きる時間を告げるベルだ。
 もそりと布団の中で身じろぎする。昨夜早く眠ったので、眠くて眠くて起きられない、というほどではない。
 けれどなにしろ梓(あずさ)は朝が苦手だ。目覚ましのベル一発で起きられることはめったにない。
 それも、その日になにか楽しみなことがあるとか、大切なことがあるとか……そういう日だけであることがほとんどなのだ。
 そのうちに今度は、ぴぴぴ、と電子音がした。二重にかけているスマホのアラームが鳴り出してしまったらしい。
 時間差でかけているので、この音が聞こえたら本当に起きなければいけない時間ということだ。
 ああ、起きないと。
 うつらうつらしながら梓は思った。まだ夢心地でいながら。
 起きないと、という気持ちはあるのに、なかなかはっきりと目は覚めてくれない。このままうとうとしていては遅刻をしてしまうのに。
 ドンドン。
 唐突にそこへ違う音がした。梓はびくりとし、一瞬でぱっと目が開いた。
 この音は。しっかりと、梓を起こす意思で叩かれているこの音は。
「おい、起きろ。遅刻するだろ」
 次に聞こえた声に、完全に梓の意識は覚醒した。むくっと起き上がる。
 若い男の子の声だ。まだ慣れないもの。
 ただ、このひとがここにいるのはおかしいとかそういうわけではない。なぜなら、まだ二ヵ月弱しか経っていないけれど、立派な『家族』なのだから。
「お、起きてたよっ」
 その声に答えた。心臓がどきどきしてくる。
 男の子が同じ家にいるというのは慣れないのだ。お兄ちゃんや弟もいないし。
 いや、いなかった、し。というのが正しい。
「嘘つけ。アラーム鳴ってたくせに。……さっさと起きてこい。朝飯あるから」
 それだけ返ってきて、ドアの外の気配が遠ざかっていくのをうっすらと感じた。行ってしまったらしい。キッチンかダイニングかにだろう。梓は、ちょっとほっとした。
 でも起きられずにいたと見抜かれていたことに恥ずかしくなる。もう一緒に暮らして二ヵ月なのだ。朝に弱いこともとっくに知られているのだけど、でもなんだかだらしのない子のように思われないかどうか心配になってしまう。
 いや、気にしなくていいのだろうか。なにしろ家族なのだから。
 それでも、格好をつけたい理由はある。
 梓は布団を出て、ベッドからも降りた。サイドボードに置いていた時計をちらっと見ると、時計は七時過ぎを指していた。あまり時間に余裕はない。八時には出なくてはいけないのだから。
 恥ずかしいし、朝からどきどきしてしまったけれど、とりあえず感謝しなくてはいけない。
 ドアを叩いてくれた男の子に。
 いや、男の子、という表現は正しくない。
 ……お兄ちゃんに、だ。
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