義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「じゃ、俺はそろそろあっちに行こうかな」
 三十分ほどが経っただろうか。渉が示したのはまた違うグループのいるところ。あちらからこちらへと、まるで有名人のようだが、ある意味そのとおりである。
「うん、また……」
 またね、と言おうとしたけれど、そのとき、すっと渉が身を寄せてきた。不自然でない程度に、だが。
「あんまり変な男子に近付くんじゃないぞ」
 それはさっきのことだろうか。梓はきょとんとしてしまう。
 確かに少し男子グループと話をしたけれど……。
「え、……うん」
 よくわからないながら、梓は頷いた。渉は梓の良い返事に、にこっと笑う。
「ん。じゃ、な。また」
 そのまま行ってしまった。梓はなんだか不思議な気持ちでそちらを見守った。
 でもあとからとくとくと心臓が高鳴ってくる。
 気遣ってくれたのだ。理由はわからなくても、自分を心配してくれたのだ。
 まるで特別扱い。いや、そう、なのだろうけど。
 その事実に、嬉しいと心の中が沸いてしまう。熱くなってきた。
 渉は今度はまた違う女子たちの集まるグループへ入っていった。そちらでも同じように、きゃあっと場が沸き立つ。
 嬉しかった、けれど。なんだか『変な男子に近付くんじゃないぞ』と言われた声が硬かったような気がした。それが心の違う部分で妙に気になってしまう。
 変な男子、と言われた意味が良くわからなかった。首を傾げたけれど、そこへ雲雀が「梓ちゃん!」と思い切り抱きついてきた。
「うわっ!?」
「ありがとう! 小鳥遊先輩に名前呼ばれちゃったっ!」
 雲雀はもはや泣き出しそうなほど嬉しそうな声をしていた。梓はさっきの不思議な言葉は置いておくことにして、雲雀のほうを向いた。
「良かったね。でも来てくれたのはお兄ちゃんだよ」
「そうだけど! 梓ちゃんがいたからきてくれたんだろうし!」
 そのあとも、渉がいてくれたときの楽しい気持ちの余韻が残っているようだった。
 お肉も野菜もすっかりなくなって、代わりにみんながおなかいっぱいになって、バーベキューがお開きになるまでそれは続いた。
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