義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 結局、梓を助けてくれたのはまた楓だった。
「行ってきなよ」
 ほかの子には言えなかったのだ。渉と会うなんてことはもちろん、部屋を抜け出して誰かに会いに行くなど。うわさになってしまうだろう。
 困った末に相談した楓は、すぐにそう言ってくれた。
「だ、大丈夫かな」
 梓はまだ踏ん切りがつかずにそう言ってしまったのだが、楓は自信満々に頷いた。
「うまくやっとくからさ。先生の確認だってそう厳しくないし。お手洗いに行ってるとか適当に言っておくよ」
 そう言って、ウインクまでしてくれた。
「合宿でこういうことって珍しくないんだよ。だから、協定っていうの? 告げ口もうわさもお互いナシってことになってんの」
「……そうなんだ」
 合宿が初めての梓は、当たり前のようにそんなことは知らなかった。けれど楓の言うことなら本当なのだろう。つまり、クラスの泊まる部屋のことはあまり心配いらないようだ。
「でも危ないことはしないでね。会うのが小鳥遊先輩ならそんな心配はいらないと思うけど」
「うん、わかってる」
 助けてくれるのだ。心配をかけるわけにはいかない。
 確かに会うのが渉なら、危ない目にあうはずはない。けれど渉と無事合流するまではそうである保証はないので。
 気を付けないと。
 うまくやらないと。
 梓はどきどきしながらも、決意した。
 そういうわけで、わりあいすんなりとクラスの女子の部屋は抜け出せてしまったのである。
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