義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 廊下のはしまで行って、きょろきょろとあたりを見回して、近くに誰かがいないかどうか確かめた。
 次に、階下を覗き込み、ひとの気配がしないかどうかじゅうぶんに探った。階下のすべては見えないのだ。向こうから来た誰かに見とがめられれば計画はおじゃんである。
 誰もいなさそう。
 今なら!
 思って梓は、サッと階段を駆け下りた。姿をさらしているわけにはいかないので、すぐに廊下のかげに滑り込む。
 身を隠して、はぁ、はぁ、と息をついた。ここまでくれば、あとはそう難しくないはず。
 ふぅ、と息を整える。そこで今の状況に、はたとした。
 こんなこそこそして、まるで逢引き、ってやつみたい。
 思ってしまって、急に恥ずかしくなった。頬に熱がのぼってくる。
 まるで江戸時代? とか……時代はよくわからないけれど、許されない恋をしている二人が、人目を盗んで会うようなことをそう呼んだはず。
 授業でそういうことを教えてくれるはずはないけれど、読んだ小説でそういうものがあったのだ。
 許されない恋……ではないけれど、とりあえず、今見つかって困るのは事実なので、逢引きって言っても間違ってないかも……。
 思ってしまい、またどきどきとしてくる。
 ううん、そういうのじゃないから。
 だってお兄ちゃんが呼び出してきた理由なんてわからないんだから。
 そういうものかどうかなんてわからない。
 でもその思考は梓を落ちつかせてくれるどころか、さらにどきどきさせてしまったのだった。
 だって、可能性はあるだろう。
 なにか、恋人同士のするようなことはないだろうけど、なにかしら特別であることは待っているだろうから。
 それを想像すると、やっぱり胸は高鳴ってしまうし、期待に沸いてしまう。
 いや、行ってみないとわからないでしょ。
 無理やり自分に言い聞かせて。
 ここまできたように、慎重に廊下を進んで、一回だけそばを通って場所をなんとなく知っていた『別館一階の裏口』へ辿り着いた。
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