義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 けれど嫌ではなかった。
 こんな、非日常。違う意味でどきどきしてしまう。
 まるで渉と秘密の共有をしているようだと思ってしまう。
 そんなこと、嫌であるどころか、不安であるどころか、嬉しくもあることだ。
 裏口から出たところは小さな林のようになっていた。
 暗くて、植物の茂るところを歩くのだけが少し不安。
 けれどそれだって、しっかり繋いでくれた手が打ち消してくれるようだった。
 あたたかな体温に、しっかりとした大きな手が。
 梓に安心を伝えてくれた。
 どきどきしてしまうような緊張と同時に安心がある。それは不思議な感覚だった。
 相反する感情のはずなのに。
 林を抜けて、着いたところは川辺だった。バーベキューをした河原だ。
けれどあの広くひらけたところではない。もっと小さくて、まるで秘密の空間のようなところだった。
 流れも穏やかな場所なのだろう、川の水はさらさらと静かに流れていた。
 綺麗、だった。
 夜の月が、水面に映っている。
 月が明るい。そして雲もなく、夜なのに明るい場所だった。月のひかりが水面に反射してあたりをほんのり明るくしてくれているのだろう。
 どうやら目的地に着いたらしい。梓はほっとした。
 そこでそっと手を離された。着いたからだろうが、触れていた感触と存在と、そしてぬくもりが離れてしまったことに寂しくなってしまう。
 おかしなことだ、緊張もしていたというのに。
「ここ、いいものが見られるんだ」
「え……?」
 渉が言った。もう一度、梓のほうを見て、にこっと微笑んだ。
 いいもの?
 この綺麗な光景だろうか。月と川という。
 それだって『いいもの』だったのだろうが、渉が示したのはもっと素敵なものだった。
「ああ……いた」
「え? ……あっ」
 渉の指差したほう。視線をやって、梓は思わず小さく声をあげてしまった。
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