義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
ホタルのひかり
 そこには黄色の小さなひかりがあった。
 ついっと宙を漂う。
 それがなんなのか。梓はちゃんと知っていた。
 夏の夜。
 川辺。
 そこに生きるもの。
 ……ホタル、だ。
 黄色のひかりは、ついたり消えたりしながら静かに移動していく。
 よく見れば、飛んでいるのはひとつではなかった。
 ちらほらと、ふたつ、みっつ、と、大量ではないけれど、いくつも飛んでいる。
「……綺麗」
 梓は、ほう、と息を洩らしていた。
 ホタル。
 これほどあたたかなひかりを見るのは初めてだった。
 夜にともる、やさしいひかり。
「見たことあるか?」
 渉の質問に、梓は首を振る。
「……ううん。実物は、初めてだよ」
 そう、ホタルというものを知っていて、こういうふうに見られるとも知っていたけれど、この目で見るのは初めてだったのだ。
 ドラマなどでしか見たことがない。でもそんなおはなしの中のものより、ずっとずっと美しかった。
「そうか。梓の初めてのホタル。一緒に見られて嬉しいよ」
 ふ、と渉の表情が崩れる。梓は舞うひかりから視線を外してそちらを見た。
 渉は微笑んでいた。嬉しそう、よりも、優しいという表現が似合うほどにあたたかい表情。
「ここ、川が綺麗なんだ。だからホタルが住める。でも、……そうだな。バーベキューをしたようなところは川が広がりすぎて見られない。こういう、林に近いところじゃないと」
「……そうだったんだ」
「もちろん、学校や家があるような街中じゃ見られない。だから、梓にどうしても見せたかったんだ」
 ふと、渉は腰を落とした。
 なんだろう、と思ったがすぐに理解した。
 渉が宙をそっと手で包み込んだから。
 その手が黄色い光に包まれる。すぐにそのひかりは渉の手の中に入ってぴかぴか輝きはじめた。
 梓もそっと腰を落とした。渉の前にしゃがむ。
 渉が手を差し出した。
 ひかりを入れた、大きな手。
「ほら、捕まえたよ」
 小さな声で言われる。
 捕まえた、なんて。
 ほう、と梓は感嘆の息をついた。
 捕まえた、なんて乱暴な表現、ちっとも似合わない。
 そっとひかりを手で包むような優しい手つきなのに。ホタルだって怪我をしたはずがないだろう。
「梓も捕まえてみるか?」
 言われてちょっと戸惑った。けれどそろそろと手を出した。
 渉はホタルが逃げないように、そっと梓の手に移してくれる。
 ホタルはまるで渉の言葉がわかるように、ついっと飛んで梓の手の中に入った。
 手のひらにとまって、ぴかぴかと光る。
 渉がそうしたように、ふんわり包むようにホタルを捕まえて。
 梓は違う意味で感嘆の吐息をついた。
「……すごい。星が手の中にあるみたい」
 夜空に輝く星。
 今、手の中にある。
 美しい星は、渉がくれたものだ。
 見せたいと思って、連れてきてくれて、なにより美しいものに触れさせてくれた。
 もう緊張などはなかった。
 ここがどこでどういう状況なのかも考えなかった。不安に思うことなどなにもないのだから。
 優しい気持ちでいっぱいになってしまう。
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