義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 わかっていたから、梓は口を開いた。
 緊張するし、恥ずかしくもあるし、どきどきとしてしまう苦しさはあるけれど、おかしなくらいに落ちついて言えてしまった。
 素直な気持ちを。
「私もお兄ちゃんが好きだよ」
 口に出して、理解した。
 恋の気持ちで好きだと。
 ずっと心にあって、ときに悩んでしまった気持ち。
 持っていて良かったのだ。
 そして今、それを伝えるときなのだ。
 なにより尊い、『好き』という気持ち。
 恋の意味で『好き』という種類だと伝えたい。
「……そうか」
 渉の声は落ちついていて、また嬉しそうでもあったけれど、でも手放しで嬉しいだけ、という響きではなかった。
 今の梓にならわかった。
 今、梓が『お兄ちゃん』と呼んだことに、だろう。
 恋の気持ちであるなら、『お兄ちゃん』は完全にふさわしいとはいえないだろうから。
「……『お兄ちゃん』が好き。でもそれだけじゃなくて、特別な男のひと、だとも思ってるの」
 だから梓は言う。
 ちゃんと伝わってほしかったから。
 伝えたかったから。
 腕に力を込めた。
 そこからも気持ちが伝わってほしい、という心で渉に寄り添う。
「そう思って、いいのかな」
 それは質問の形だったかもしれない。
 けれどそうではない。
 心を確かめるための言葉。
 自分の心だけではなく、渉の心も。二人ぶんの心を。
 ひとつに合わせるための言葉だ。
 梓のその思いは伝わってくれたらしい。
 渉の腕にも力が込められたから。
 梓をもっと強く抱きしめてくれる。
 あたたかさと、渉の強い思いがはっきりと伝わってきた。
「思っていい。……俺は、そう思ってほしい」
 これで全部だった。
 もうあれこれ言う必要はなかった。気持ちを伝えあうことに関しては。
 梓はことりと目の前にある厚い胸に頭を預けた。
 どきどきとして、顔も熱くて、緊張してしまって、息も心臓も苦しい。
 けれど落ちついてしまっていた。
 それは渉に手を引かれて林の中を歩いたときと同じたぐいのもの。
 そのときよりずっと濃くなっていたけれど。
 ここにきたかった、と思う。
 渉の胸の中という場所だけではない。
 渉との関係。伝え合った気持ちから至る関係。
 ……恋の意味でも一緒にいるという関係。
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