義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 しかし渉はきょとりとした顔をした。
「いい香り? シャンプーの?」
 シャンプー?
 梓もつられたように、きょとんとしてしまう。なぜここでシャンプーなのか。
 けれどすぐに気付いた。
 つい先日、シャンプーを変えたのだった。友達に勧められたものだ。
 今まではお母さんの使っていたものを一緒に使っていた。子供の頃から使っていた、ドラッグストアで買えるものだ。
 それも悪くはなかったのだけど、友達、よく一緒にいる中でもオシャレな砂原(さはら) つぐみに「これ、すごく髪がつやつやになるってお姉ちゃんが買ってきたんだよ」と教えてもらった。そのシャンプーの名前を入れて検索したスマホでは、コスメ情報サイトに『女子高生支持率一位!』と書いてあった。
 つぐみに安く買えるネットショップを教えてもらって、お母さんにおねだりした。お母さんは、今まで使っていたものより少し高いし、いかにも若い女の子が好みそうなパッケージやうたい文句はあまり気に入らなかったらしい。
 けれど、めちゃくちゃ高価というわけではなかったし、「もう高校生だものね。自分で選んでもいいでしょう」と、しぶしぶではあったが買ってくれたのだった。
 それを使うようになったのだった。
 思い出して、少し考えて……今度は別の意味で顔が熱くなった。
 シャンプーがいい香り、と言ってくれた。
 それは自分のシャンプーの香りを感じられていたということであり、そして渉も少しばかりはこのシャンプーの香りをいい香りだと思ってくれていたということであり。
 汗拭きシートの香りを感じていた、というのとは違う意味で恥ずかしい。
 でも正直に言うのもためらわれたので、一瞬迷ったものの、そういうことにしておくことにした。
「そっ、そうなの! これ、つぐみちゃんにおすすめされたんだけど、すごいいい香りで……」
「へぇ。仲のいい子だったよな」
 渉も梓の友達の名前や存在、姿などは少し知っている。それは梓が家族が集まる食事の席で、学校の話をするときによく出てくるからだ。一緒に撮った写真などを見せたこともあるし。
 ささいなことなのに、そんなことに嬉しくなってしまう。こういうささいなことを共有できるのが家族なのだから。
「そう! お姉ちゃんが使ってるってね……」
 梓がしゃべるのを渉は聞いていてくれたのだけど、ふと言った。
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