義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「おかえり! 遅かったね。もう梓ちゃんの番になるとこだよ」
 ただいま、とドアを開けて部屋に入る。梓を見て楓がほっとしたように言った。
 ああ、間に合うように戻ってこられた。
 梓もほっとした。間に合わなかったら曲を入れ直さなければいけないので、申し訳なかったところだ。
 意外と長話をしてしまっていたらしい。時間も気にしていなかった、と反省する。
「うん、お兄ちゃんに会っちゃって」
 ジュースをテーブルに置いて座りながら梓は言った。それを聞いて顔を輝かせたのは雲雀。
「え! 小鳥遊先輩が来てたの! なんで? 友達と?」
 雲雀は『小鳥遊先輩』に憧れている女子の一人なのだ。いつも梓に「『お兄ちゃん』って家の中ではどんな感じなの?」と聞いてくる。
 ちなみにクラスメイトなど、友達未満の関係の子たちには生徒会の一件以来、「昔から『親せきのお兄ちゃん』って意味で『お兄ちゃん』って呼ぶ習慣だったから」とちょっと苦しい言い訳をしていた。
 けれど渉が『いとこ』という設定にしたのだから、クラスの中でも同じ設定にしておいたほうがいい。
 なので、渉が梓にとって『親せきのお兄ちゃん』ではなく、『戸籍上は繋がりのある本当のお兄ちゃん』なのだということは、ごく仲のいい友達しか知らないことだ。友達の秘密を口外するような子たちではないので、梓は心配していなかった。
 雲雀ももちろん、本当のことを話している一人だ。だから気兼ねすることなく話せる。
「うん、バスケ部の打ち上げなんだって。偶然だったなぁ」
 歌う前にひとくちアイスティーを飲みながら梓は言った。雲雀は羨ましそうに「いいなぁー」と言う。
「ジュースもらいに行ったら会えるかな?」
「いや、小鳥遊先輩がさっきジュース取りに行ってたなら、しばらく来ないでしょ」
 雲雀につぐみがツッコミを入れる。雲雀は渉関連だと恋する乙女そのものになってしまうので、微笑ましい。けれどドリンクバーについてはツッコミが事実である。
「そっかー。んんー、残念」
 雲雀は心底残念そうだった。
 そこで梓の選んだアイドルソングのタイトルがモニターに映された。
 女子中高生に人気の男性アイドルユニット『B・J(ブラックジャック)』の、これまた一番の人気曲。女子中高生なら誰でも知っているというほど有名な曲だ。
「あ、私の番だね」
 梓はアイスティーのコップをテーブルに置いて、代わりにテーブルに置いてあったマイクを手に取った。
 そのまま歌に意識は集中していって、渉と、それから一鷹先輩に会ったときの、ざわりとした感覚はすぐに忘れてしまった。なんなら、家に帰るまで、思い出しもしなかった。
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