義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 女の子だ。梓より少し年上で……そう、渉と同じくらいの年に見えた。
 そして、渉と同じくらいの年どころではなかった。
「一鷹(いたか)か。ジュースもらいにきたのか?」
 渉はその子に声をかける。どうも一緒に来ていたひとらしい。
 一鷹と呼ばれたその子、梓にとってはきっと一鷹先輩と呼ぶべきポジションだろう。
「うん。なくなっちゃったから……あら」
 彼女は頷いて、それから梓を見た。ちょっと目を丸くする。
「小鳥遊くんの……。……いとこさんだっけ」
 梓は一鷹先輩を知らなかったが、向こうは知っていたらしい。話を聞いたか、もしくは遠くなどから姿を見られていたとか、そういうことだろう。
「ああ。いとこなんだ。梓っていう」
「は、はじめまして」
 渉は梓を示して一鷹先輩に紹介してくれた。
 次に一鷹先輩のことも紹介してくれる。
「バスケ部のマネージャーなんだ。一鷹 流(いたか りゅう)さん」
「よろしくね。小鳥遊くんと同じ、三年です」
 一鷹先輩は、にこっと微笑んだ。人懐っこくて優しそうな笑みだったけれど……。
 なぜか、梓の胸の内が、ざわっとした。
 え、なにこれ。
 梓は自分の反応に自分で戸惑った。
 なんだか、苦手なものを見たとか……そういうときの感覚に近いような気がしたのだ。
 一瞬でその感覚は消えた。一鷹先輩はにこにこしていたし、なにもおかしなところなどなかったし。
 梓は心の中で、首をひねった。
 なんだったのだろう、今の一瞬の感覚は。
「お、大勢で来たんだね」
 梓はそれを払拭するように言った。ごまかすようだ、と思ったけれど、どうしてこんな言い方になったのかもわからなかった。
 でも渉も一鷹先輩も特におかしく思わなかったようだ。
「ああ。バスケ部のほとんど全員で来たから……すごい広い部屋なんだぜ」
「そうそう。音響もすごいの」
 渉の言葉に一鷹先輩も続けた。まったく何気ない口調と声だった。
 少しだけ話して、「じゃ、またな」と渉は行ってしまった。話すうちにジュースを入れていた一鷹先輩も一緒に、である。
 それを見て、また梓の胸の中がちょっとだけ波立つ感覚がした。やはりそれが起こる意味はわからなかった。
 女の子も来てたんだ。
 自分も友達たちと過ごしている部屋へ戻りながら、そんなふうに思った。
 しかし渉の参加する打ち上げに女子が来ていようと、なにもおかしいことなどない。だってバスケ部はマネージャーの女子が何人かいると聞いていた。その一人というだけではないか。
 やはり首をひねった梓であった。
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