義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
顔合わせからそう時間も経たず、梓は学校を転校した。
だが引っ越したのはそれからずいぶんあとのことだった。
現在住んでいる、吉祥寺にある家、慶隼学園からほど近い、家族全員で暮らしている家に越してきてからまだ半年も経っていないのだ。
それまではどうしていたかというと、埼玉の奥、元々住んでいたところから電車で通っていた。
お母さんの仕事の都合がどうしてもつかなかったのだ。
固い仕事をしていたので、いくら事前に退職を申請していても、年度末まではいてほしいと懇願されてしまったのだそうだ。
ずっとお世話になっていた会社だから、むげにもできないし、とお母さんはためいきをついて、たまに「通学が大変でごめんね」と言ってくれた。
その、埼玉の家。都内まではだいぶ遠かったし、一時間半はゆうにかかった。
時間もかかれば、満員のときに当たってしまう電車もつらくて……梓は最初、こんな事態になったことを後悔した。
その頃はまだ友達もできたばかりだったし、手探りで関係を進めていく段階で。
私立校は閉鎖的なところもある、と聞いていたけれど、慶隼学園はそうでなかったのが幸いだった。
クラスメイトは唐突に、変な時期に転校してきた梓に優しくしてくれた。何人か特別に仲良くなれそうな子も出てきた。
けれどはじめの頃は、元の学校もそのときのクラスメイトも友達も恋しくてならなかった。
良くしてもらったって、それまでの仲の良かった子に比べたらまったく違う。
落ち込みそうな梓、だったけれど。
それを救ってくれたのが『お兄ちゃん』だったのだ。
渉は新しい家族の顔合わせ以来、梓に積極的に会ってくれるようになっていた。
学校は、当時、中等部と高等部だったので暮らすエリアが違う。
このときは住んでいる家だって違った。
なのに、朝。毎日駅まで迎えに来てくれた。
慶隼学園は駅から少し歩く。十五分くらい。今の家よりは距離があった。
当時、渉も別のところに『お父さん』と暮らしていて、電車通学だったという理由はあるかもしれない。
けれど、毎朝、駅で待っていてくれたのだ。
「おはよう、梓」
にこっと笑って、「じゃ、行こうか」と誘ってくれる。
当時の梓にとって、その『お迎え』がどんなに救いだったか。
だが引っ越したのはそれからずいぶんあとのことだった。
現在住んでいる、吉祥寺にある家、慶隼学園からほど近い、家族全員で暮らしている家に越してきてからまだ半年も経っていないのだ。
それまではどうしていたかというと、埼玉の奥、元々住んでいたところから電車で通っていた。
お母さんの仕事の都合がどうしてもつかなかったのだ。
固い仕事をしていたので、いくら事前に退職を申請していても、年度末まではいてほしいと懇願されてしまったのだそうだ。
ずっとお世話になっていた会社だから、むげにもできないし、とお母さんはためいきをついて、たまに「通学が大変でごめんね」と言ってくれた。
その、埼玉の家。都内まではだいぶ遠かったし、一時間半はゆうにかかった。
時間もかかれば、満員のときに当たってしまう電車もつらくて……梓は最初、こんな事態になったことを後悔した。
その頃はまだ友達もできたばかりだったし、手探りで関係を進めていく段階で。
私立校は閉鎖的なところもある、と聞いていたけれど、慶隼学園はそうでなかったのが幸いだった。
クラスメイトは唐突に、変な時期に転校してきた梓に優しくしてくれた。何人か特別に仲良くなれそうな子も出てきた。
けれどはじめの頃は、元の学校もそのときのクラスメイトも友達も恋しくてならなかった。
良くしてもらったって、それまでの仲の良かった子に比べたらまったく違う。
落ち込みそうな梓、だったけれど。
それを救ってくれたのが『お兄ちゃん』だったのだ。
渉は新しい家族の顔合わせ以来、梓に積極的に会ってくれるようになっていた。
学校は、当時、中等部と高等部だったので暮らすエリアが違う。
このときは住んでいる家だって違った。
なのに、朝。毎日駅まで迎えに来てくれた。
慶隼学園は駅から少し歩く。十五分くらい。今の家よりは距離があった。
当時、渉も別のところに『お父さん』と暮らしていて、電車通学だったという理由はあるかもしれない。
けれど、毎朝、駅で待っていてくれたのだ。
「おはよう、梓」
にこっと笑って、「じゃ、行こうか」と誘ってくれる。
当時の梓にとって、その『お迎え』がどんなに救いだったか。