義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 渉とて、そのときはまだ『知り合って数週間のひと』ではあった。
 けれどそんな関係だけではない。
 『お兄ちゃん』なのだ。
 お兄ちゃんなんてできて、うまくやっていけるかな。
 いじめられたりしないかな。
 もしくは「妹なんてうっとおしい」とか冷たくされたりしないかな。
 梓がそんな不安をたっぷり抱えていたのはよくわかってくれていたのだろう。
 その不安を拭うように優しく接してくれた。
 緊張してなかなか話せない梓をせかすことなく、渉のほうから話題を振ってくれて、少しずつ梓からも話せるようになっていった。
 渉と歩く毎朝の駅から学校までの道。
 通ううちに、梓の心も体も落ちついて、またなじんでいってくれた。
 授業でわからないことがあって落ち込んでも。
 立ち入ったことを聞いてくるクラスメイトに、愛想笑いをしてごまかしてしまって暗い気持ちになっても。
 毎朝、渉の「おはよう、梓」を聞けば、「今日も頑張ろう」と思うことができるのだった。
 渉は部活などで忙しいと聞いていたので、帰りは別だったけれど。
 生徒会をやっているとは当時、聞いていなかったが、とりあえず忙しいとは知っていた。
 でも帰りは一緒に駅まで行ける友達ができてくれた。その子たちと話しながら駅まで帰るのも楽しいと思えるようになっていった。
 帰るのが電車で一時間半以上はかかる埼玉奥地でも、朝の渉の「おはよう」と、新しい友達の「また明日ね」。そのふたつで気持ちはどんどん楽になっていった。
 そんなふうに、お父さんとお母さんの思惑通りに梓は着実に新しい学校、慶隼学園にもなじんでいって、そして春先に引っ越しとなった。
 今、みんなで暮らしている吉祥寺の街の、大きな家に、である。


 実はそのときから渉は梓のことを「いとこなんだ。一緒に暮らすことになった」と身近なひとには説明していたらしい。なので梓が、過度に嫉妬を受けることはなかった、ようなのだ。
 まだ家族になったばかりだったのに。
 渉ははじめから、気の付く優しいお兄ちゃん、であったのだ。
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