義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
柱の陰のヒミツ
「ご、ごめんね。なんか付き合わせちゃって……」
 廊下を行く間に梓は謝った。自分のために渉は「休憩にしよう」と言ってくれただろうに、買い出しなんて付き合わせる形になってしまった。
「いいって。気分転換したいって言ったろ。同じ部屋にずっといたら、気も詰まる」
「それは……あるかもね」
 二人で廊下を歩く。夏休みだが部活に来ているらしき生徒が何人かいた。生徒会室近くはいくつか部室もあるので、そこで活動があるのだろう。
 みんみん、と声が聞こえてくるので、梓は窓に視線を向けた。
 セミの声なのはわかるけれど、窓にとまっているとかそういうわけではないようだ。小さい鳴き声だから、外の木にでもとまっているのだろう。
 視線を向けた先のそこから見えた、外のグラウンドは静かだった。
 暑い折なのだ。グラウンドはあまり使われない季節。
 昔は真夏でもグラウンドで体育や部活をしたり、あるいは屋外にプールがあったりしたらしいけれど、今はそんなこと難しい。温暖化が激しいとかで。昔はもう少し涼しかったそうだ。
 屋外プールは想像してみると楽しそうなので、ちょっと残念になるのだけど仕方がない。
 それでも外は、クーラーの効いている室内から見るぶんには真夏の光景が眩しかった。
 青い空に入道雲がたっぷり浮かんでいる。最高にいい天気だ。
 グラウンドの周りに植えられている木々も、一番元気よく葉っぱを広げる季節。緑が鮮やかだ。
 梓が窓の外を見たのに気付いたらしい。渉がちょっと心配そうな声を出した。
「熱中症になんかなってないか? 部屋の中でも油断はできないっていうぞ」
「え、そんなことないよ。頭とか痛くないし」
「ほんとか? ちょっとこっち見てみろよ」
 あまりにさらりと言われたので、梓はそのまま渉のほうを見てしまった。そしてどきりとする。
 夏服の渉。校内はクーラーが効いているので汗をかいた様子はない。ワイシャツもさらりとした感触らしく、いつもどおり爽やかに着こなしていた。
 そんなことはともかく、どきりとしたのはそんな姿の渉が距離を詰めてきたからである。
「ちょっと顔、赤くないか?」
「え、……そんなことは」
 ないよ、と言うつもりだった。けれどその声は途切れた。
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