義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 渉の手が、すっと伸びた。触れた先はなんと梓の頬である。
 梓は心臓が一瞬止まったかと思うほど驚いた。目が丸くなっただろう。
 けれどそれは一瞬のこと。すぐにどくんっと心臓が跳ねて、喉の奥まで来たかと思うほど苦しくなる。
 渉の大きくて、やわらかで、でも男の子らしくごつい手。
 ほんのり汗ばんでいる。それは不快に感じるかもしれない感触だったのに、梓にはかえって「お兄ちゃんは確かにここにいる」と感じさせてくれるようなものだった。
 そして「お兄ちゃんに触れられている」とも感じさせてきた。
「やっぱり顔が赤い」
 いや、これはお兄ちゃんがこんなことするから!
 そう言いたかったけれど、そんな余裕はなく、ばくばく鳴る心臓を抱えつつ、心配そうな顔をする渉を見つめるしかなかった。
「さっきもちょっと具合が悪そうだったから……心配で」
 さっきのこと。
 奇妙な感情を感じてしまったこと。あのことを指されているようだけど渉はきっと誤解しているのだろう。
 梓の様子は体調かどこかが悪いからだったのでは、と。
 心配してくれるのは嬉しいけれど、実のところ正しくないし、でもどう説明しろと言うのか。
 お兄ちゃんがほかの女の子に優しくして、触れて……そういうのが気になってしまった、なんて。
 まるで、片想いの男子に思うような感情じゃない。
 そう思ってしまった瞬間。
 もっと、今までだって熱かったのに、もっと顔が熱くなってしまう。目の前の男の子は、確かに『男子』ではあるけれど、『お兄ちゃん』なのに。
「やっぱり一回保健室に、……あっ」
 渉の手が、いつくしむように梓の頬を撫でた。顔を赤くしてしまったから、それをもっと心配してくれたらしい。
 けれどそこでなにかに気付いたような顔をした。ぱっと梓の頬から手を離して、でも梓が疑問や寂しさを覚える間もなく、手を引っ張られた。
「ちょっとこっちに」
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